1. 株式会社すららネット 湯野川 孝彦 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社すららネット 湯野川 孝彦 氏

株式会社すららネット 代表取締役社長
湯野川 孝彦
前職である東証一部上場企業の新規事業担当役員時代に、e-ラーニング教材「すらら」の事業を企画・開発。2010年、すらら事業を MBOにより買収し独立。「すらら」は、全ての子どもたちが「わかる」「できる」「使える」というユニークなコンセプトで急速に広まり、今では690の塾、150の学校、58,000のユーザーに活用されるまでに成長。幅広い層への学習支援活動にも力を入れ、教育システムの整っていない世界の子どもたちにも質の良い教育を与えることを視野に、スリランカ、インドネシア、インドでも事業を展開中。
すららネット Webサイト

ICTを利用した新しい学習で、リーズナブルな質の良い学びの場を提供

近年、親の所得差が、子どもの学力や大学進学率にも影響しているという調査報告書が文部科学省より公表されたのをご存知だろうか。学費の高いインターナショナルスクールのようなハイレベルな教育システムの数は増し、少子化傾向にある日本では、子どもの教育費の格差が顕著に表れているのは事実であり、社会問題の一つである。
「所得格差と教育機会格差の負のスパイラルを断ち切る」という理念を掲げ、e-ラーニングシステムを活用した学習塾を展開。NPOと連携した経済的困窮世帯の子ども向け塾や町おこしプロジェクトと連携した町営塾、お寺が運営する「現代の寺子屋」など様々な企業や組織と連携し、教育課題の解決に向けた教育事業を行っている。教務品質を保ちつつリーズナブルな月謝で勉強できる学習システムを、国内と国外の子どもたちに提供する活動を行っている、すららネット湯野川代表に話を聞いた。

事業の社会的価値に惹かれ独立を決意

もともとこの事業は、以前勤務していたフランチャイズの加盟店開発や指導を支援する東証一部上場企業の新規事業の一環として、私が企画・推進することで始まりました。しかし、後にその会社が経営不振に陥り、それを機に思い入れのあったすららの事業を持って独立することを決意しました。

スタート時には年間で約7,000万円もの赤字を抱えていた事業ではありましたが、この事業には、理念やビジョンに対して自分の意思を貫きつつ、社会的価値を生み出すことに感じていましたし、理念やビジョンに対して、自分の意思を貫けるという意味でも独立の魅力を感じていました。何よりこの事業を通して、本業そのもので社会課題を解決できる喜びは一番の仕事の原動力となりました。大きな会社の中の事業の一環として行うことと、独立して事業を行うことにはどちらもメリットとデメリットがあると思いますが、独立して行うことに私が多くのメリットを感じているのは、他に類を見ない理想のビジネスモデルを実現したかったからです。

湯野川孝彦インタビュー01

チャンスに備えて疑似体験することの大切さ

私の場合は、以前勤めていた会社で新規事業開発担当役員をしていたこともあり、数多くの新規事業の立ち上げを行ってきたので、ある意味起業するにあたっての予行練習ができていたと言えます。これらの疑似体験は独立してから大変役に立ちました。
どのようなものであれ、会社や学校で何か新しい試みのプロジェクトを参加・推進することは、起業を志す方にとって、必ず将来に役立つはずです。ただ与えられた仕事を受け身にこなすのではなく、自分が独立する時の疑似体験だと思って主体者意識を持ち取り組んで欲しいと思います。意志を持っていれば、そのような経験ができるチャンスはいくらでもあるはずです。

やはり重要な資金調達

独立するにあたり、資金調達には苦労しました。どのような事業でも、始めるにあたって資金は必要なものです。ファンドやベンチャーキャピタルに様々な種類や分担があるのも知らなかったので、片っ端から当たっていって玉砕し、時間も労力も費やしました。デューデリジェンスを受けるための事業計画書を書くことも簡単なことではありません。そういった事に関してはしっかりと勉強し、下調べをしておくことが重要です。
私自身も人の紹介で助けられた経験が多かったこともあり、同じように起業を考えている方にはアドバイスや関係性のある方を紹介するなど、できる限り協力するようにしています。もちろん、すららネットでは学習塾で独立開業を志望する経営者の方にも、そういった資金調達のアドバイスをしております。
最近は、事業内容に魅力があるものや、社会貢献性が高いものには特に資金が集まりやすい環境にあるのではないかと思います。独立を志向される方は、しっかり検討した上で是非チャレンジしてみてください。

企業理念の大切さ

我々は、企業理念にもある「所得格差と教育機会格差の負のスパイラルを断ち切る」という社会的課題を解決していきたいと願っています。学力や所得などが高い層に対応した教育機関はいくらでもありますが、私たちが行いたいのは社会における教育格差の底辺にある部分の底上げをしていくことです。まるでNPOの理念のようですが、我々は上場企業なので、理念を実現しながらビジネス(収益)の面でも成功することを目指しています。
そういった企業理念をしっかりと掲げ、会社が進むべき方向性を示すことは、会社を存続させるためにも重要なものであり、事業を展開する上で要となるものです。
現在、ITシステムを使用した学習システムに関しては政府の推奨もあり、それもこの事業の追い風となっています。このように社会貢献性の高い事業に関しては、自然と後押ししてくれるような世の中になってきています。
日本はもちろん、世界中で経営環境が著しい変化を遂げている時代、その時代に要請される社会問題の解決に目を向ければ、新しいビジネスチャンスは、まだまだ見つかるはずです。

湯野川孝彦インタビュー02

現代版の寺子屋を

現在NPOや様々な組織の方々とも提携して、現代版寺子屋のような「まなびの場」の展開も進めています。先日も築地本願寺のご協力により、お寺で「すらら」を利用した学習の場が実現しました。
また、NPOと連携して、仙台や東京などで無料ですららの学習システムが利用できる場所が増えています。このように現代版の寺子屋のような場所を地方も含めた日本全国で広げていきたいと思っています。

家庭の経済的事情等により塾には通えないお子様にも学校とはまた別の形で勉強の楽しさを伝え、不登校児や、学習障がい・発達障がいのお子様の学習にも役立てていきたいと思っています。様々な子どもたちに学習しやすい環境を提供していき、ひとりでも多くの子どもたちに学ぶことの喜びを感じてもらいたいです。こういった学びの場を増やしていくことにより、社会全体の教育レベルを上げていくことが、私たちの役目だと思っています。
現在では海外の子どもたちにも目を向け、低料金で高品質な教育をすることを視野に、スリランカ、インドネシア、インドでも事業を展開しています。世界には、まだまだ識字率の低い地域や女性の学習環境が整っていない国も多く存在しています。将来は、そういった地域で悩んでいる方たちの力になり、我々も一緒に成長していきたいと思っています。

湯野川孝彦インタビュー03

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