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東京都創業NETインタビュー
株式会社チカク 代表
梶原 健司 ⽒
アップルジャパンに新卒で入社。以後12年にわたって、ビジネスプランニング、新規事業立ち上げおよびiPodビジネスの責任者などを経て、独立。2014年にチカクを創業。スマホで撮った子供の動画や写真を実家のテレビに手軽に送れるサービス「まごチャンネル」を開発・販売している。
株式会社チカク Webサイト
家族を手軽につなげるサービスで、離れて暮らす人が互いを近く知覚できる世界を創る
新卒で入社したアップルを退社し、起業に向けて事業アイデアを探す日々
スティーブ・ジョブズの言葉に感銘を受け、アップルの日本法人でキャリアをスタート。以降12年間でマーケティング、セールス、新規事業開発と様々な業務を担当しました。退職し起業に向けて動き出した2011年は、東日本大震災があり、スティーブ・ジョブズが亡くなったタイミングでもあります。震災時は東京のオフィスにいましたが、出身である淡路島が阪神淡路大震災で大きな被害を受けた地域だったこともあり、人生を考え直す機会になりました。入社時はスタートアップのような企業だったアップルも在籍中に大企業になっていたため、退職して新たな挑戦を求めて自身で起業しようと決めました。
退職時に具体的な事業アイデアをもっていた訳ではなく、友人や先輩など日本中・世界中の知り合いに会いに行ってディスカッションを重ねながらテーマを探し続けました。前職の影響もあり、「クールでイノベーティブな事業をすべきでは?」と当時は考えていました。しかし1年ほど経ってもピンとくるようなテーマが思いつきません。唯一可能性を感じたのが、現在のサービスの原型です。子どもが生まれて以来、動画や写真のデータを実家に送ってテレビで見られるようにすると、両親はとても喜んでくれたので、これをより多くのご家族間で利用していただくのはどうだろうと思い至りました。
自身の両親のために続けてきたことは、離れて暮らす多くの祖父母を喜ばせると確信
まず確かめたのは「これは自分の両親以外にも喜んでもらえるものなのかどうか」ということでした。友人や知人に声をかけ、幼いお孫さんを持つおじいちゃん・おばあちゃんを紹介していただき、十数組のご家族のもとへ伺いました。商品の説明をしている最中は目立った反応はありません。不安になりながらも、「最後に、実際のイメージをお見せしますね」と事前に内緒でお預かりしていたご自身のお孫さんの動画をサプライズでテレビに映し出すと、皆さん顔をほころばせながら、「これいくらですか?」と聞いてこられました(笑)。アイデアに自信をもつことができ、このときから本気でサービス化に取り組もうと思いました。
サービス開始時はヒト・モノ・カネでの苦労も
通信ができるハードウェアがあればサービスをより理想の形で実現できると考え、サービス開発を進めることに決めました。アップルでの経験もあり、よく知っているハードウェア領域なら自身の経験を活かせるだろうといった思いもありました。しかし、私はエンジニアではありませんし、エンジニアの知人もいませんでしたので、とにかく友人に声をかけたり、イベントや飲み会に参加したりして、100人以上もの方と出会い、興味をもって一緒に取り組んでくれる仲間を探す日々の連続でした。また、ハードウェア開発に必要な資金もありませんでした。投資家とのコネクションもありませんし、当時はハードウェアへの知見がある方も少ない状況です。自宅のテレビで孫の成長が見られるプロダクトを作りたいという私ひとりに、関心をもって投資してくださる方がなかなか見つけられず苦労しました。そんな中でも諦めずにとにかく行動し続けることで、仲間も集まり、補助金などを活用しながら徐々にサービス化を進めてきました。
ASAC参加をきっかけに広がったネットワーク
事業を進める中で参加したのが、青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)のアクセラレーションプログラムです。当時、事業についてアドバイスをもらっていたVoicy代表の緒方憲太郎さんがメンターとして入るとお聞きしたので、1期生として参加しました。サービスのクラウドファンディングを終え、出荷に向けて動いていた頃です。
参加してよかったと思う点は、ネットワークが広がったことです。当時は広い意味で繋がりが足りなかったのですが、ASACのメンターやイベントでのマッチング等でさまざまな方と知り合うきっかけとなりました。セコム株式会社と協働で開発した、離れて暮らすご実家とコミュニケーションを楽しみながら見守りもできる「まごチャンネル with SECOM」も、ASACでセコムさんの社員の方とお会いできたから生まれたものです。ASACの卒業生やメンターはどんどん増え続けていて、お互いに名前を知っていることもあるし、今でもASAC関係の方とお会いしたときには共通の話題があるので話が弾みますね。
東京都主催「ダイバーシティTOKYO アプリアワード」最優秀賞を受賞した「まごチャンネル with SECOM」
高齢者の生きがいとなるサービスで、さらに人との距離をチカクする
「まごチャンネル」ユーザーの方からは「生きがいになっています」「これがないと生活が成り立ちません」といったメッセージをいただくことが多く、届くメッセージを見るたびに、喜んでもらえるサービスをつくって良かったと思います。おじいちゃん・おばあちゃんが亡くなってしまったからと解約の連絡をいただくことがありますが、その際も「亡くなる直前まで見ていました」などと、感謝と共に使用時の様子を伝えてくださるんです。私達が作ったサービスがその方の生活に溶け込んで、最期をよりよく過ごしていただくお手伝いができたと思うと嬉しい限りですね。
現在は、テレビ電話機能の開発も進めています。社名の「チカク」の通り、家族はもちろん医師、ケアマネ、ヘルパーなど、今は離れているさまざまな人同士の距離を近くしていくことに寄与していきたいと考えています。また、自治体のお知らせをテレビで見られるようにするなど、地域の高齢者とのコミュニケーション手段として活用していただく取り組みなども加速したいと考えています。日本では高齢化が進んでいますし、今後も高齢者の生活がより良くなるサービスに育てていきたいです。
起業を目指す方へのメッセージ
起業してみたいと思っているなら、まずやってみることをおすすめします。今は、起業するだけなら1円からネット上で法人登記ができてしまう時代です。会社勤めしながら副業で起業している方もいるなど、私が起業した頃よりもハードルは低くなってきていると思います。スタートアップで短期的に大きく成長していこうとすると採用や資金調達も大変ですが、お客様からいただいたお金で少しずつ事業拡大を目指す中小企業的なアプローチもあります。
私自身も1人で起業してから、数年前までは会議室もないマンションの小さな1室に数人の仲間と一緒にこもりながら、サービス開発に励んできました。国や東京都にも希望する事業規模にあわせたサポート体制が出てきています。たくさんの方が自らチャレンジしていくのが日本のプラスになっていくはずです。小さなことから始めてみてはいかがでしょうか。
記事内の創業・成長支援プログラム
⻘⼭スタートアップアクセラレーションセンター
5か⽉間のアクセラレーションプログラムを通して、アクセラレーターや先輩起業家、さらには⼤志を持った多くのメンター陣の⽀援を受け、リーディングカンパニーへと成⻑するための機会と場を提供しています。特に⼥性起業家や成⻑産業等、東京都の政策課題に取り組む⽅々や、ソーシャルやものづくり等、ベンチャーキャピタル(VC)が投資しにくいといわれる分野で起業に取り組む創業予定者やスタートアップ企業をメインのターゲットにしています。