1. VxTech株式会社 小野衣子 氏

東京都創業NETインタビュー

VxTech株式会社 小野衣子 氏

VxTech株式会社
小野衣子 氏
母子家庭で育ち、学費を工面するため夜間大学へ進学。在学中、ワーキング・ホリデー制度を利用してカナダで就労経験を積む。卒業後は上海で新規開拓営業を担当。株式会社アドウェイズ、株式会社マイクロアドで海外事業立ち上げを経験し、AIスタートアップのオルツを経て独立。2023年にAI防犯アプリ「SASENAI」を開発するVxTech株式会社を設立する。
SASENAI https://sasenai.com/

子どもたちの安全な未来のために、AIが守る新しい防犯のカタチ

テクノロジーで子どもたちを犯罪から守る

少子化で子どもの数が減少している一方で、子どもを狙った犯罪件数は横ばいのままです。むしろ、道路上での被害率は増加し、守られるべき存在が十分に守られていない現状があります。これは、高齢化や共働き世帯の増加により、地域の目が行き届かない「見守りの空白地帯」が増えていることが要因の一つでしょう。
こうした現状を目の当たりにして、人の力だけでは補いきれない部分をテクノロジーで支援する必要があると考え、VxTech株式会社を設立。AI防犯アプリ「SASENAI(サセナイ)」の開発に乗り出しました。このアプリは、登下校中の犯罪から子どもを守ることを目的に、映像や音声、GPSなどのデータを通じて危険を検知し、危険回避までをサポートします。言い換えれば、子ども自身に判断や行動を「させない」、相手に犯罪や加害行為を「させない」ためのデジタルツールです。

VxTech株式会社 小野衣子 氏

夫のひと言が事業立ち上げへの道しるべとなる

私が起業を決意した背景には、個人的な経験と家族の存在が大きく影響しています。私自身、4歳で性被害に遭いました。その時頭に浮かんだのは母親や保育者が教わった「怪しい人がいたら大声を出す」「走って逃げる」という防犯対策でしたが、声は掠り声すら出ず、走って逃げようとしましたがすぐに脚がすくんで止まってしまいました。大きくなってからも電車で痴漢に遭ったり、露出行為を目撃したりと、ただ生きているだけで理不尽な経験に繰り返し遭う毎に自分には力がなく何もできないと感情にふたをして過ごすようになりました。しかし、娘があのときの私と同じ4歳になったとき、急に恐怖が込み上げその気持ちは一変したのです。娘と一緒に読もうと防犯の絵本を購入すると、そこには「変な人がいたら大声を出そう」「走って逃げよう」と書かれており、私が被害に遭った30年前と変わらない対策を大人たちが今でも子どもに教えていることに疑問を感じました。
さらに、当時はMeToo運動が広がっており、「もし私があのとき声を上げていたら、彼女たちは傷つかずに済んだかもしれない」という罪悪感も抱いていました。「少しでも現状を変えたい」と夫に熱く語ると、「それはあなたにしかできないことだ」と背中を押してくれたのです。夫の言葉で、私にはやるべきことがあると気づき、行動に移すきっかけとなりました。

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成長と創業への道を切り開いたTSG挑戦

起業を考えるようになったものの、過去にセクハラ被害を受けて声を上げた際に理解されにくかった経験から、「この気持ちはひとりよがりかもしれない」「受け入れてもらえないかもしれない」という不安がつきまとっていました。そうした不安を払拭するため、TOKYO STARTUP GATEWAY 2023に挑戦することを決意。400文字の起業アイデアを練り、エントリーしました。
最優秀賞をいただいて自分の考えてきたことは、決してひとりよがりではなかったと自信がついただけでなく、起業に向けての準備や覚悟が必然的に求められ、選考を進むにつれて多くの学びと成長を得ました。特に、アクセラレーションプログラムを通じて起業に必要なことを自問自答し、自分と向き合う貴重な時間をもてたことは大きかったです。

VxTech株式会社 小野衣子 氏

X-HUB TOKYO参加で見えたグローバル展開への道

TSGでの経験を通じ、日本だけでなく、世界中の子どもたちを犯罪から守る必要性を強く感じるようになり、海外展開の可能性を探るためにX-HUB TOKYOに参加しました。滞在したシリコンバレーでは、ベンチャーキャピタルの方々や先輩起業家、すでに子ども支援をされている方々と話す機会をいただき、海外市場におけるニーズの手応えを掴むことができ自信を深めるきっかけとなりました。
また、英語でのピッチ経験がなく不安でしたが、丁寧な指導のおかげで自分の想いが海外でも伝わる実感を得ました。特に、「社会課題としての重要性は理解できるが、少子化が進む中でビジネスとして成立するのか?」という指摘は、単なる共感だけでなく、持続可能なビジネスモデルの構築の必要性を再認識する機会となりました。
こうした学びを生かすためにAPT Womenに参加し、ニューヨークプログラムに手を挙げました。現地のグローバルな投資家やパートナーとの接点を広げ、海外展開の具体化に向けたネットワーキングを進めています。今後もビジネス基盤を強化しつつ、「SASENAI」のPoC(概念実証)を進め、2026年4月のリリースに向けた準備を加速させています。

VxTech株式会社 小野衣子 氏

起業を目指す方へのメッセージ

これから起業を目指す方々は、きっとさまざまなアイデアをお持ちでしょう。大切なのは、ゴールをどう設定するかです。私もかつてはそうでしたが、多くの人がアイデアについて「どうすれば100点を取れるか」を考え、100点に満たないと感じると途中で諦めてしまうことが多いように思います。
ただ、100点を取ることが本当にゴールなのでしょうか。社会人の多くは当り前のように就職し、1日の大半を仕事に費やしていますが、それは言い換えれば、自分の人生を削っているともいえます。もし「削る」ではなく「作り出す」ことや「未来につながる何か」を得られるなら、自己成長や心の充実に変わるかもしれません。
だからこそ、自分にとって何が大切なのかを考え、さまざまな視点からアイデアを評価することが重要です。例えば「儲かるかどうか」で見れば70点のアイデアでも、「自分を満たせるか」という視点なら120点になることもあるでしょう。わくわくしながらアイデアを育てていくことができれば、きっと素敵な起業家になれると思います。

記事内の創業・成長支援プログラム

TOKYO STARTUP GATEWAY

TOKYO STARTUP GATEWAYは、テクノロジーから、モノづくり、ソーシャルイノベーション、リアルビジネス、グローバルを見据えた起業など、分野を越えて、「東京」から世界を変える若き起業家を輩出するスタートアップコンテストです。
優秀なビジネスプランなど、初めは必要ありません。「こんな世界や世の中をつくりたい、みてみたい。」その、あなたに秘めた夢・情熱こそが全てのはじまりです。この場に集まる仲間や応援団と共に、真に世界を変えていける力を、思い切り磨いていってください。

X-HUB TOKYO GLOBAL STARTUP ACCELERATOR

X-HUB TOKYOでは、世界市場を目指す起業家に対する情報提供、東京発グローバルスタートアップとなるポテンシャルのある起業家に対するグローバル市場へのアクセスの機会を提供します。

Acceleration Program in Tokyo for Women「APT Women」

APT Womenは、スケールアップを目指す女性ベンチャーに対し短期集中型育成プログラムを提供することで、スケールアップに必要な経営知識やスキル、それらを共有するベンチャー企業同士の繋がり、更に事業展開に欠かせない協力者・支援者(ベンチャーキャピタル、メディア、大企業等)とのネットワークの獲得を支援します。

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