1. LOOVIC株式会社 山中 享 氏

東京都創業NETインタビュー

LOOVIC株式会社 山中 享 氏

LOOVIC株式会社 山中 享 氏 大学卒業後、アイリスオーヤマ、ソフトバンク、NTTPC、アマゾンウェブサービスで経験を積んだのち、複数のスタートアップ企業で役員を務める。2019年にデジタルハリウッド大学大学院に入学。在学中にStartup Hub Tokyoに参加し、「Startup Stage 2020」でNICT賞を受賞する。2021年には、スマートフォンの画面を見ずに音声のみで道案内を行うサービス「LOOVIC」を展開するLOOVIC株式会社を設立。
LOOVIC株式会社 コーポレートサイト

やさしいテクノロジーで「苦手」を支え、共助の輪を世界へ

寄り添う移動支援サービスで安心と楽しさを届ける

私たちの周りには、「空間認知が苦手」「地図が読めない」といった「苦手」を抱える方が少なくありません。こうした目に見えにくい「苦手」をテクノロジーの力でそっと支え、苦手を苦手と感じさせない社会の実現を目指しています。そして、この取り組みを通じて助け合いの心が育まれ、その輪が世界中に広がることで、争いのない平和を実現すること。これが私たちの描く未来像です。そんな思いから、付き添い・声かけサービス「LOOVIC」が生まれました。
LOOVICは、スマートフォンの画面を見ることなく、音声案内だけで目的地にたどり着けるアプリです。従来の地図アプリは、「その先、右方向です」といったシンプルな音声案内が主流で、画面を確認しながらの移動が必要でした。一方でLOOVICは、「右手にコンビニがあります。そこを右に曲がってください」「前方に段差がありますので、気をつけてください」など、利用者にとって家族など身近な人の声で、利用者が気づきにくい情報を具体的に伝えます。これにより、家族や友人が隣で道案内をしているような安心感を得られ、移動をより楽しめるようになります。

LOOVIC株式会社 山中 享 氏

起業を後押ししたStartup Hub Tokyoへの参加

LOOVICの源流には、息子の視空間認知障害をリハビリテーションにて克服してきた経験があります。景色を記憶することが苦手な彼にとって一人での移動は難しく家族や支援者の助けが欠かせませんでした。この現実を前に、「移動の自立支援をやさしいテクノロジーで支えたい」という強い思いが芽生えたのです。
複数の企業でマーケティングや通信技術、新規事業開発などに携わり、実務を通じてスキルを磨いてきた後、プロダクトを自社で立ち上げに必要な感覚や基礎知識を得るためにデジタルハリウッド大学大学院に通いました。さらに、在学中にはStartup Hub Tokyoにも参加し、多くの方々と意見を交わすなかで「もっとこうすれば良くなるのでは?」といった貴重なアドバイスを得ることができました。こうして漠然としていたアイデアは次第に具体性を帯び、2021年にLOOVIC株式会社の設立に至ったのです。

LOOVIC株式会社 山中 享 氏

利他主義がビジネスを成長させる

設立当初から社会課題の解決に貢献することを事業の軸に据え、たとえ思うように利益を得られなくても、社会に必要とされる価値を生み出すことを大切にしてきました。この姿勢は社会人経験を通じて培われたものであり、これまでの事業活動にも表れています。
その象徴的なできごとが、ハードウェアからソフトウェアへの事業転換です。当初、私たちは音声と振動を用いて移動をサポートするデバイスを開発していました。肩に振動を与えて進行方向を知らせる仕組みです。しかし、利用者が自らの意思で、周辺を確認することなく、振動からの向かう方向への指示だけに従っていた結果、車にはねられそうになってしまったことから、「自ら考え、外出できるようにする、自立を活かした技術が必要である」と感じました。すなわち、振動デバイスが、過剰な刺激になったわけです。GPSについても正しい場所で正しく指示することを思いがちですが、正しく指示しすぎると、これも同様に自ら考えて、外出ができなくなってしまいます。ですから、案内の方法も、右・左ではなく、立ち位置から見える景色を自ら考え探し、それを見つつ、周りを見渡し判断する仕組みを活かしやすい、音声案内になったったわけです。ただ、これには、その音声情報を作るため、当事者をもっと知る人が支援情報を作る必要性を感じたわけです。もし利益だけを追求していたなら、この選択はできなかったでしょう。しかし、社会をより良くするためには必要な決断でした。

LOOVIC株式会社 山中 享 氏

ASACが拓いたLOOVICの新たな可能性

事業のさらなる成長を目指し、2022年11月からASAC(青山スタートアップアクセラレーションセンター)に参加しました。ASACは、優れたメンター陣と充実したプログラムを備え、多くの著名な起業家を輩出してきた、いわばスタートアップ企業の登竜門です。しかし、参加までの道のりは決して平坦ではなく、5度の落選を経験。「次に落ちたら諦めよう」と覚悟を決めた6回目の挑戦で、ようやく採択されました。
ASACに参加して良かったことは、仲間との出会いです。プログラムには合宿も含まれており、夜遅くまで努力を重ねるメンバーの姿に大きな刺激を受けました。また、多くの起業家と壁打ちをする機会を得たことで、アイデアをブラッシュアップすることができました。その結果、視空間認知障害の自立支援だけでなく、一般の方が誰でも利用できるための技術として、外出を伴う様々なライフスタイルサービスに使える移動支援技術としての活用可能性が見えてきたのです。これらの経験を糧に、教育や、建設など、この技術を活かせる事業領域でのコラボレーションを通じて共創関係を築き、この事業をグローバルに広げることを目指しています。

LOOVIC株式会社 山中 享 氏

起業を目指す方へのメッセージ

起業を目指すうえで重要なのは、視野を広げ、多様な価値観や意見に触れることです。そのためには、さまざまな人に相談し、対話を通じて学びを深める姿勢が欠かせません。私自身、ASACに参加したことで、起業家との壁打ちを通じて刺激を受け、新たな視点を得ることができました。そのため、実践的な学びが詰まっているASACのプログラムは、皆さんにとって大きな助けとなるはずです。まずはASACに採択されることを目標に掲げ、そこから一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
また、起業にはセンスも求められます。アドバイスをそのまま受け入れるだけでは自分軸を見失い、プロダクトを前に進めることはできません。自分軸を築くためには、アートや倫理、哲学といった幅広い価値観を磨くことが重要です。その手段として、大学や大学院での学びも一つの選択肢となります。
もちろん、チャレンジする過程で壁にぶつかることもあるでしょう。しかし、その経験こそが成長につながるプロセスです。失敗を恐れず、自分の可能性を信じて一歩を踏み出してください。困難を乗り越えた先には、新たな道が見えてくるはずです。

記事内の創業・成長支援プログラム

青山スタートアップアクセラレーションセンター

5か月間のアクセラレーションプログラムを通して、アクセラレーターや先輩起業家、さらには大志を持った多くのメンター陣の支援を受け、リーディングカンパニーへと成長するための機会と場を提供しています。特に女性起業家や成長産業等、東京都の政策課題に取り組む方々や、ソーシャルやものづくり等、ベンチャーキャピタル(VC)が投資しにくいといわれる分野で起業に取り組む創業予定者やスタートアップ企業をメインのターゲットにしています。

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