1. 株式会社CyberneX 馬場 基文 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社CyberneX 馬場 基文 氏

株式会社CyberneX
馬場 基文 氏
1997年富士ゼロックス株式会社入社。技術開発本部、商品開発本部などを経て、研究技術開発本部にて新規事業開発責任者に。在籍時に着目したBCIの活用に注力するために、2020年株式会社CyberneX設立。経済産業省の出向起業補助金事業に採択され、富士ゼロックスと協業。
独創的なアイデアを戦術などに取り入れたユニークな戦国武将で、武田四天王とも呼ばれた馬場信春の末裔であることを知り、自身の0から1を生み出す発明のルーツを先祖に見い出す。CyberneXのロゴには武田家の家紋である武田菱があしらわれている。
株式会社CyberneX Webサイト

脳情報の取得で、新しいコミュニケーションや社会を創造する

ウェルビーイングな社会の推進に脳情報を活用

私たちCyberneXは、脳波という電気信号をコンピューターに伝えるBCIという仕組みを使い、あらゆる人が脳情報を活用することを前提とした社会の実現を目指しています。イヤホン型BCIであるXHOLOS(エクゾロス) Ear Brain Interfaceを開発し、簡単かつ日常的に脳情報にアクセスすることを可能にすることで、取得した脳波を分析。現在はリラクゼーションの領域で活用が進んでおり、ウェルビーイングな社会の推進に役立てようと取り組んでいます。
脳情報の活用は、私が以前勤めていた富士ゼロックス(現富士フイルムビジネスイノベーション株式会社)で、外部のスタートアップと共に創出した事業アイデアの一つでした。例えば人が暑いと感じたら、エアコンのリモコンを操作するのではなく、脳波から送られた電子情報でエアコンが稼働する。人間が機械を操作するのではなく、人間と機械がやり取りする仕組みが、新しいコミュニケーションを生むと考えました。最初はクリエーティブに働きたいワーカーをペルソナに、集中力を高めたり、リラックスできる音楽をリコメンドして聞かせ、脳波で効果を測定するというサービスを構築し、そこから派生して現在のサービスに行き着きました。

株式会社CyberneX 馬場 基文 氏

新しい価値を創造したい、その一心で出過ぎた杭に

富士ゼロックスは、もともと富士フイルムとゼロックス社とのジョイントベンチャーです。ゼロックス社の研究所に参画していたアラン・ケイがパーソナル・コンピューターを開発し、これによって人間のコミュニケーションが大きく変わりました。私はアラン・ケイの「未来を予測する最良の方法は、それを発明してしまうことだ」という言葉に感化され、人間のコミュニケーションを変えた会社で、さらに新しいコミュニケーションを生み出そうと強い思いを抱いて入社しました。
富士ゼロックスは複合機で成長し、私も在籍中は開発に深く関わりました。しかしペーパーレス化が進む以上、新しい価値をつくらなければ会社の未来はないと考えるようになり、会社に新規事業の推進を直談判し続けました。組織の中で何かを成し遂げるには「出過ぎた杭」になるくらいでなければ難しく、壁にぶち当たるたびに、自分は何のために生まれ、なぜ仕事をしているのかという考えに帰着しました。しかし会社に属する限りは、自分の夢と会社のやりたいことがリンクすることが重要で、折り合わなければ両者が不幸になります。双方の合致が取れなくなったことで、私はBCI事業を継続するために起業しました。

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メンターのアドバイスで、将来像を明確に描けた

2022年に、ASAC(青山スタートアップアクセラレーションセンター)のアクセラレーションプログラムに採択されました。一番良かったことは、メンター・サポートを受けられたことです。脳情報を活用する未来はこれから広がっていくと確信していますが、その未来にどうやって到達すればいいのか、将来像をどう描くのか、未知数なだけに難しい面もあります。脳情報を活用するメリットをどんなに魅力的に語ったとしても、具体的にマネタイズできるのかと疑問をもたれがちです。
私たちだけでは、その将来像をうまく描ききれないと痛感することがありました。しかしメンターと一緒に未来のシナリオを描き、将来像をどう伝えるのかを考えられたことで、将来像が具体化できました。

モデル事業で脳情報の活用方法を可視化

創業当初は、脳情報を活用できるプラットフォームをつくろうと構想していましたが、多くの企業が興味をもってくれたものの、なかなか実を結びませんでした。まずは自分たちでモデル事業をつくって見せなければ納得いただけないと考え、2022年にEar Brain Interface技術とアロマやマインドフルネスなどのコンテンツを掛け合わせたリラクゼーションプログラムを提供する「Holistic Lab XHOLOS 麻布広尾」をオープンしました。Ear Brain Interfaceの装着性や脳波から読み取るアルゴリズムの精度などを実感してもらう場を設けたことで、手を挙げてくださる企業が増えました。
また2023年6月にはリラックスや癒やしを訴求する商材がどの程度のリラックス効果を出しているのかを脳波で可視化する「α Relax Analyzer」をリリースするなどしながら、現在はどんな事業が理想なのか、その実現に向けて脳情報がどのように活用できるのかをプロトタイピングしながら企業と共に事業を創造しています。

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やりたいことを実現するには、環境づくりが必須

起業して初めて、会社に支えられていたことに気づきました。大企業では、自分がやらなくても誰かがやってくれることが多分にあります。けれど起業したら何でも自分で考え、決断しなければならず、これが精神的に厳しかったです。私は一緒に起業した仲間がいたので、彼らと熟考しながら歩んできました。その点はラッキーだったと思っています。しかし志だけでは食べていけません。お金も必要だし、組織づくりも重要で、最初はやりたいことをやるための環境づくりに必死でした。
起業して3年目に入った今では、会社が形成されていくことに喜びを感じるようになりました。弊社には18歳から65歳の仲間が働いていますが平等に意見し合って、みんなで夢を実現するために協力し合っています。CyberneXは一人一人がヒーロー。「この会社には俺がいるから成り立っている」と全員が言える会社にしたい。そんな環境づくりに取り組めるのも、起業したからこそだと思っています。

株式会社CyberneX 馬場 基文 氏

脳情報を活用したパーソナルAIの実現へ向けて

現在はリラクゼーション領域での活用に注力していますが、今後はみなさん一人一人に活用されるパーソナルなものにしていきたいです。
XHOLOS Ear Brain Interfaceを毎日装着し、常に脳波を測定することで、今週は働き過ぎ、体調が崩れているなど自己の状態に気づくきっかけが得られる。パフォーマンス上がっていない時に、自分はどうすればパフォーマンスが上がるのかを脳波から推測して実行できる。自分にとってのウェルビーイングとは何かを追い求めていけるようなサービスへと昇華させることで、コミュニケーションを変えていく。そして最終的には、脳情報から収集した自分自身のデータを取り入れたパーソナルAIを実現し、自分自身がより良く生きるためにデータを活用する世界を実現することが、私たちの夢です。

株式会社CyberneX 馬場 基文 氏

起業を目指す方へのメッセージ

やりたいことを実現するために起業しか選択肢がないなら、起業すべきです。起業すれば辛いことがたくさんありますが、それでも私は、スタートアップは若い人だけのものではないと、世のおじさんたちに伝えたいです。
私は50代で起業しました。年齢を重ねると人生を諦め始める人が増えますが、それは高齢化社会において非常にネガティブな発想だし、バイタリティーのある人が働ける土壌をつくっていくべきです。長く生きてきたからこそ、若い頃の勢いや馬力とは違うスパイスがあります。仲間を集めて、信じることをやり遂げようとする意志があれば、夢を実現できます。私が活動し続けることが、そんな事例になればいいと思っています。

記事内の創業・成長支援プログラム

青山スタートアップアクセラレーションセンター

5か月間のアクセラレーションプログラムを通して、アクセラレーターや先輩起業家、さらには大志を持った多くのメンター陣の支援を受け、リーディングカンパニーへと成長するための機会と場を提供しています。特に女性起業家や成長産業等、東京都の政策課題に取り組む方々や、ソーシャルやものづくり等、ベンチャーキャピタル(VC)が投資しにくいといわれる分野で起業に取り組む創業予定者やスタートアップ企業をメインのターゲットにしています。

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