1. ユーバー株式会社 中村 里香 氏

東京都創業NETインタビュー

ユーバー株式会社 中村 里香 氏

ユーバー株式会社 代表取締役
中村 里香
大学時代は文学部に所属し教員を目指していたが、卒業後はIT企業に就職。以後、セールスエンジニア、サポートエンジニア、インストラクター、プロジェクト管理者としてエンジニア教育、ICT教育に携わる。2017年4月に「ユーバー株式会社」を設立。現在、豊洲・九段下の2校で幼児・小学生向けのプログラミング教室を展開している。2017年には東京2020公認プログラム世界発信コンペティションのサービス部門で「ユーバープログラミングスクールスクラッチコース」が特別賞を受賞、スクール生が中心となって作ったデジタル絵本は2017年、2018年の2年連続でデジタル絵本アワードキッズ賞を受賞するなど、高い評価を得ている。2018年に「遊びながら楽しく学ぶ!小学生のScratchプログラミング」(共著)をナツメ社から出版。

楽しく低価格のプログラミング教育をすべての子供・保護者へ

2020年から小学校教育課程でプログラミングが必修化される。プログラミング的思考力とは、情報を整理して論理的に物事を考え、的確な指示ができる能力のことだ。この力を、子供のころから身に着けることが求められている。だが、現役教員、親世代のときにはなかった新しい科目だけに、内容が分からずどのように学習させればよいのか戸惑う学校や保護者は多い。そんな中、ユーバー株式会社は、幼児・小学生向けのプログラミング教室やコンテンツサービスにいち早く取り組み、注目を集めている。中村社長に、起業までの道のり、プログラミング教育への想いなどを聞いた。

ボランティアで教えることからスタート、リピーターが増え、事業化へ

プログラミングを子どもたちに教えたいと思ったきっかけは、2016年に発表された政府成長戦略で、2020年から初等教育でもプログラミング教育が必須化されると知ったことです。私は学生時代教育課程を履修し教えることに興味がありましたし、ICT分野の仕事をずっとしてきたので、これからのプログラミング教育の必要性はよく分かっていました。早速、小学生のわが子に学ばせようと塾を探しましたが、当時は数も少なく、見つけた塾の教材費や月謝はとても高額でした。それなら自分で教えてみようと思ったのが始まりです。

当時勤めていた会社は副業禁止だったので、ボランティアで教えることから始めました。マンションの集会室や区の研修センターなどで子どもと子どもの友達、そのお母さんたち10組くらいに来てもらい、教材を作ってワークショップを開きました。毎回アンケートを取って反応を見たところ、「また教えてほしい」と評判がよく、手応えを感じました。実際、新しい教材を作るとほとんどの人がリピーターとして来てくださったのです。その後はチラシ配布やWeb告知の甲斐もあって一般の方も集まるようになりました。

でも多くの人が集まるようになると、ボランティアで教えることの限界を感じるようになりました。直接の知人ではない保護者の方が増え、「あなたはどこのどなたですか」「なぜこういうことをやっているのですか」と聞かれることが多くなったのです。大切なお子さんを預かるわけですから、教える側の身元がしっかりしていなければ保護者の方が安心できないのは当然です。そこで、事業として責任を持って運営し、法人化をしようと覚悟を決めました。2016年末にモニターを募集したところ、約100人もの人が集まってくださいました。途中抜けていく人もいると予想していましたが、開校した際には多くの人が入会してくださいました。

ボランティアで教えた期間に経験したことや、モニターの皆様からのアンケートは、事業化してからも何よりの財産になっています。起業を考えている人は、想いだけでスタートするのではなく、まずはテストパターンとして行う、お金をためるなどの準備をきちんとしてからスタートしたほうが、事業を軌道に乗せやすいと思います。

中村 里香インタビュー01

転機は子どもが生まれたこと 生き方・働き方を見直した

一貫してICTの現場で働き充実した会社員生活を送っていた私が、生き方、働き方を見直す転機になったのは、子どもが産まれたことです。当時は30代後半で、役職定年、つまりこの先の会社員生活がどうなるかが見えてきた時期でもありました。「今はこれでいいけれど、ずっとこのままでいいのか」という問いが、いつも頭の中にありました。また、子どもが熱を出したときに休みにくいなど、母親ならではの悩みも抱えていたのです。もっと自由に働いてみたい、自分で自分の時間をコントロールする働き方ができないものかと、起業について考えるようになりました。

一緒に働いていた同僚(共同で会社を立ち上げた林田浩典取締役)と、雑談でお互いの子どもの話をしているうちに、「私たちはICT分野の専門家だから、プログラミング教育について何か子どものためになることができるのでは」という話になりました。漠然とした起業へのあこがれが「やってみよう」に変わり、前述のボランティアのワークショップにつながっていったのです。

事業の立ち上げで一番大変だったのは、教室を開く場所探しです。当初は自宅近くのテナントに入居することを考えていました。ところが、子ども向けの教室と聞くとほとんどのオーナーから「うるさくなる」と断られてしまいました。また、幼児・小学生の集まりだと自転車で来る人が多いのですが、自転車を停める場所や近くに駐輪場がある建物はごくわずかです。どうしたものかと途方に暮れていたところ、今のオフィスを紹介してもらいました。結局、教室を開く時間のみを借りることで賃料が抑えられ、月謝を安くすることができたので、結果的にとても良かったです。

また、会社設立などの手続き面についてもノウハウがなく、苦労しました。最初は何をどうしていいかさっぱり分かりませんでしたが、あれこれ調べるうちにTOKYO創業ステーションにたどりつきました。定款づくりや事業計画の作り方など、プランコンサルの方には親身になって細かいところまでサポートしていただき、本当に感謝しています。

中村 里香インタビュー02

教材の面白さがカギ、子供だけでなく保護者にも優しい内容に

プログラミング教室を成功させる一番のカギは、教材の面白さだと思っています。子どもたちに「早く次をやりたい」と思って楽しんでもらうことが何より大切ですね。たまにうまくできなくて泣いてしまう子どもがいますが、教材の内容や教え方の面で改善点につなげようと反省材料にしています。

今後は子どもだけでなく、それを見守るお母さん、お父さんたちにとっても望ましい教室にしたいと思っています。保護者の方の負担になると結局は続きません。月謝をなるべく安くするのはもちろん、子どもが体調を崩してお休みすることになっても振替可能にするといった配慮をすることで、安心して通わせてほしいのです。

プログラミング教育は、受けている子と受けていない子との差が大きく開いてしまうのが特徴の一つです。多くの子どもたちに地域格差なく教育の機会を提供したいと、学童や塾などアフタースクール向けにライセンス教材の販売も始めました。ところが、販売を始めてみると、それを教える先生が全く足りないということが分かりました。そこで、子どもにプログラミングを教えたい大人のための教室も、ICT教育ニュースと提携してスタートし、好評を得ています。プログラミングを教える人もさらに増やし、将来的には全国各地に教室が広がっていくことを目標にしています。

人間の創造性を生かすため、AIを使いこなしてほしい

プログラミングの知識は、これまではエンジニアだけが知っていればよかったのですが、AIが生活や仕事に密接にかかわるようになり、大きく流れが変わりました。誰もがプログラミング的思考を持ち、AIを使いこなせるようになることが求められています。「AIが人間にとってかわるのでは」と心配する人もいますが、私はもっとポジティブに考えています。創造的な部分は人間が行って、それ以外の面倒な部分をAIがこなすようになるのではないでしょうか。

プログラミングを勉強するのは、人間らしく活躍するため、創造性を発揮するため。子どもたちには、やりたいことを実現するためのベースの知識としてプログラミング的思考力を身につけ、自分らしく活躍してほしいと願っています。

中村 里香インタビュー03

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