1. 株式会社メディセプト 代表取締役 柳田頼人 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社メディセプト 代表取締役 柳田頼人氏

株式会社メディセプト 代表取締役
柳田頼人
神戸出身。ミュージシャンを目指し、19歳のときに渡米。帰国後は、音楽事務所に所属して、ライブ活動やラジオ出演など、ミュージシャンとして活動。その後独立し、フリーのミュージシャンを経て、友人と飲食業をスタート。事業は成功し、介護事業にも手を拡げたことから介護の仕事に興味を持つように。同じ頃、母親を自宅ではなくホスピスで看取ったことへの後悔から、自分で看護事業を始めることを決意。株式会社メディセプトを立ち上げた。
株式会社メディセプト Webサイト

お客様と従業員が生き生きと暮らせるみちをひく

株式会社メディセプトは、看護やリハビリテーションなど手助けが必要な人のために、看護師や理学療法士等を派遣する訪問看護ステーションを運営している。代表取締役の柳田氏は、自身も母親の介護のときに、訪問看護を利用した経験があることから、「従業員が笑顔でなければ、本当にいいサービスは提供できない」と考え、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら生き生きと長く働ける環境づくりをしてきた。平成30年には、東京ライフ・ワーク・バランス認定企業に選ばれている。

社会の役に立ちたいと強烈に感じた20代の終わり

19歳のときにアメリカに留学して音楽を学び、帰国後はミュージシャンとして10年ほど活動してきましたが、30歳を前にして昔の友人と再会し、今まで感じたことのないような疎外感にさいなまれました。友人みな既に家庭を持ち、社会のために生き生きと働いているのに、自分は何も社会の役に立っていない。社会のために何かしたいと強く思うようになりました。

そのころ、脱サラをして飲食業で起業しようとしていた昔の音楽仲間に再会。誘われて、一緒にビジネスをすることになりました。これが好調で、事業を拡大し、4、5店舗を持つほどになり、さらに介護事業もスタート。この仕事がきっかけで、これまでは全く関心もなかったご近所の独居老人や高齢者に関するさまざまな事柄が身近な問題として気になりはじめました。

母を自宅ではなくホスピスで看取った後悔が起業のきっかけに

同じ頃、自分の母親ががんを患い、訪問看護を利用することになったことから、訪問診療や訪問看護について調べたり勉強したりするようになりました。

母は末期がんでしたが、さまざまな手をつくして、なんとか5年を生き延びていました。ところがあるとき、ゴールデンウィークで訪問看護のスタッフが足りないという理由で一時的にホスピスに入所することになり、あろうことか、そこで最期を迎えることになってしまいました。 自宅で看取ってあげることができなかったことが無念で、自分を責めました。

しかし、よく考えると、スタッフが足りないから利用者の要望に応えられないというのは、経営の問題ではないか、そんなことで人生の最後が左右されていいのだろうか、今の医療現場ではできないのなら、自分が社長になって、利用者の選択肢の幅を広げてあげられるよう なサービスを提供したいと思うようになりました。

飲食業の方は軌道に乗っていましたが、この課題に全力で取り組みたいと思い、退職。この頃には結婚して妻のお腹には子どももいましたので、かなり勇気のいる決断でした。

すぐにも起業するつもりで、思い切って神戸から東京に進出。東京に行けば何とかなると思ったのです。しかし、甘かったですね。人脈も何もなく、すぐに生活に困りました。でも、たまたまご縁があって、介護の会社に就職することができ、そこで働きながら、介護の知識やノウ ハウを蓄積し、人脈を広げ、起業の機会をうかがっていました。

銀行口座の開設、看護師の確保、東京都の認可……、困難は続く

会社勤めでビジネスのノウハウは得ることができましたが、一番苦労したのは資金調達です。私が始めようとしているビジネスは、クラウドファンディングでお金を集められるほど新規性のあるアイデアではありません。実績もないので、銀行の融資を受けることはできず、懇意にしてくれた取引先の社長など、2年間で培った人間関係をもとに出資を募り、開業資金を集めました。

法人を設立するにあたって、銀行口座を開設しなければなりませんが、大手銀行では、ただ銀行口座を開設するということすらできませんでした。たくさんの書類を提出しましたが、もどってくる返事は「今回は残念ながら……」という返事ばかり。相手にしてくれたのは、インターネット銀行や地域の信用金庫でした。

次に困ったのは、東京都の認可を得ること。訪問看護ステーションとして東京都で開業するためには、東京都の認可が必要です。そのためには、看護師の有資格者を最低2.5人雇う必要がありました。訪問看護の仕事は、24時間365日、休みがない過酷な仕事。なかなか人が集まりませんでした。認可がないと仕事を始められないので、仕事もないうちから看護師を雇い、売上はないのに人件費だけは出ていくという厳しい時期を乗り越えなければなりませんでした。認可が下り、ようやく1人の利用者が見つかったというときに、従業員が1人辞め、最低条件の2.5人をクリアできなくなったことから営業停止状態に。当然、訪問看護の仕事はできないので、初めてのお客さんを逃してしまうことになってしまいました。開業資金も底をつきかけていました。本当に厳しかったですね。

しかし、半年くらい経った頃には従業員も定着し、コンスタントに仕事も入るようになり、順調に経営ができるようになりました。現在5年目を迎えています。

従業員に余裕がなければいいサービスはできない

私も訪問看護を利用した経験があるので、自分だったらどんなサービスをしてほしいだろうと考えることを大切にしています。訪問看護を利用する人は、弱い立場の人です。医者も忙しいので、利用者の意向を全て組むことはできません。だからこそ私は、利用者があきらめなくてすむよう、訪問看護を通じて、なるべく多くの選択肢が提供できることを目指しています。

また、私も利用者だったのでわかりますが、訪問看護にきてくれる人が暗い顔をしていたら、利用者も看病している家族も気持ちが落ち込んでしまいます。訪問する従業員には笑顔でいてほしい。そのためには、職場を居心地よくし、生き生きと長く働いてもらえる環境を作ることが大事だと思っています。

当社では、育児休業、介護休業、時短勤務はもちろん、従業員一人ひとりの事情に応じて、柔軟な働き方ができるようにしています。職場内のコミュニケーションも風通しがよく、気軽に事情を相談しやすい雰囲気になるよう心がけています。

また、看護や介護の仕事は休みがなく過酷というイメージがありますが、従業員を多く確保して、ワークシェアリングをすることで、一人ひとりの負担を軽くすることができます。よい人材にたくさん来てもらうためにも、働きやすい環境づくりは不可欠と考えています。

柳田頼人氏インタビュー

人生の楽しみをあきらめなくてすむように

今後、高齢者の人口は2035年をピークに増え続けていきます。在宅医療が普及し、訪問看護のビジネスは着実に拡大していくでしょう。訪問看護のビジネスは続けていますが、以前飲食業をしていたこともあり、将来は、食に関するビジネスもやっていきたいと考えています。

食べることは人生においてとても大事です。病気などで食べる楽しみを奪われている人にも食の楽しみを提供することができないか、食べるための歯の健康や嚥下機能の維持など、食の周辺にも目を向けていきたい。将来に向けて構想中です。

起業するなら、パッションを全力で守り続ける覚悟が大事

柳田頼人氏インタビュー

法人設立は、パソコンひとつで簡単にできます。それよりも起業する上で大事なのは、「社会の問題を解決するためにこれをやりたい!」という強いパッションだと思います。

私の場合、「こういうサービスが欲しい!これがあれば他の人も助かるはずだ!」という強いパッションだけで起業しました。あとは、走りながら考えていました。色々考えていたら、怖くて起業できなかったかもしれませんね。リスクも多いし、絶対に利益が出るという保証は何もない。成長させなければとか会社を大きくしなければとか思う間もなく、とにかくつぶさないこと、維持することだけ考えてここまで来ました。

ビジネスを始めてみて、うまくいかないことがあると、「間違っていたのかな、だめなのかなと」パッションも落ちていく。パッションを保ち続けるのが難しくなる。それでも守り続けなければ、他の誰も守ってくれませんし、人はついてきてくれません。

逆に、仕事がうまくいって、利益が増え賛同者も増えていくと、今度は何のためにやっていたのかがわからなくなる。最初のパッションを忘れそうになる。このときは初心に返って、また思い出す。この繰り返しですね。これから起業しようと思う方たちには、ぜひ、パッションを全力で守り続けていただきたいです。

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