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東京都創業NETインタビュー
株式会社エテ 代表取締役社長
庄司 夏子 氏
東京都出身。1989年生まれ。駒場学園高等学校 食物調理科を卒業後、「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」(現「レクテ」)、「フロリレージュ」を経て22歳で独立。季節のフルーツをぜいたくにあしらった、完全予約制・数量限定販売のケーキ『フルール・ド・エテ』が「幻のケーキ」と呼ばれて話題に。2015年7月に、住所・電話番号非公開、1日1組の完全紹介制のレストラン「été(エテ)」をオープン。2016年に法人化。
株式会社エテ Webサイト
並外れた努力、誰にもまねできないクリエイション、
そしてお客様を大切にする気持ちがあれば、可能性は無限
22歳という若さで独立。1秒でも早く有名になりたいという強い想いから、徹底的に「ブランディング」に力を入れた。当初、ケーキ1点に絞って認知を得た後、1日1組限定のレストラン「été」をオープン。予約の取りにくさが、さらに人気に拍車をかけた。常に完璧を目指す高度なクリエイションも人気を不動のものにしている。最近では、村上隆など、第一線のアーティストとのコラボレーションも熱心に行っている。2020年に、「アジアのベスト・レストラン50」において「アジアのベスト・パティシエ賞」を日本人として初めて受賞。東京女性経営者アワード「継続成長部門」受賞。
起業は生活費を稼ぐため。小規模な個人事業主としてスタート
料理に興味を持ったのは、中学校の家庭科の授業でシュークリームを作ったことがきっかけです。プロになると決心して、食物調理科のある高校に進学し、和洋中の料理を学びました。高校卒業後は、一つ星レストラン「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」に就職。その後、「フロリレージュ」を経て、22歳で独立しました。
最初から独立しようと思っていたわけではありません。父親が母と知的障害の妹を残して亡くなり、私が何とかして稼がなければならなくなったのです。迷惑をかける形で退職をしたため、同じ業界での再就職は難しいと思い、起業に踏み切りました。
一般的にレストランをオープンしようとしたら、小さい店舗でも最低4000万円はかかります。実績のない若い女性に誰もそんなお金を貸してはくれないため、金融公庫の融資1000万円と自己資金を元に、マンションの一室で、まずは個人事業主としてレストラン業をスタートしました。
無名ではお客さんは来ない。まずは徹底的なブランディングから
1秒でも早く話題になり、お店を軌道に乗せなければという切羽詰まった思いはありましたが、実績もない無名の女性がレストランを開いたところでお客は集まりません。そこでまずはケーキを作り、そのケーキが「幻の」と言われるまでケーキ一本でいこう、ブランディングを確立してからレストランを開業しようと決めました。
普通のケーキを作っても意味がないと考え、今まで誰も見たことのない、ぱっと見たら3秒で認知される作品を作ろうと思いました。それが後に「なかなか予約が取れない幻のケーキ」と話題になった、マンゴーのバラのタルト「フルール・ド・エテ」です。また、いろいろな種類を作ったのでは逆に印象が弱くなると思い、メディアにもマンゴーのタルト1点に絞って露出しました。ケーキは少しずつ話題になり、またテレビでも取り上げられたことでWebサイトにアクセスが殺到。そこですぐにWebサイトを閉じました。そのことが逆に話題となり、「予約の取れない幻のケーキ」のブランディングが確立したのです。
その後、レストラン「été」をオープン。ケーキを何度も買ってくださるお客様にだけ、「レストランもオープンしたのでいらしてください」と案内し、1日1組限定でスタートしました。
目先の利益よりも大切なのは、完璧なクオリティでお客様の満足度を高めること
1日1組に限定したのは、マンションの一室からスタートしたためでもありますが、回転数を上げて利益を出すことよりも、お客様の満足度を上げてブランドを確立することが大事だと考えたからです。当時は、スタッフは自分一人だったので、1日1組ならクオリティを下げることなく料理が提供できると思いました。
私にとっては一皿一皿の料理が真剣勝負の作品、本当に良いものを作るためにはお金に糸目をつけずにやってきました。それでも1日1組の完全予約制なら、売上も多くないかわりに経費も少なく、廃棄などの無駄もない。蓋を開けてみると、着実に利益が上がっていました。
個人でオープンして2年経ち、スタッフを2人雇うことをきっかけに法人化。スタッフを雇うということはその人自身とその家族の生活に対しても責任が発生します。利益を上げ続ける覚悟で、会計士を雇い利益をしっかり管理し、スタッフの家族にも会って安心していただいたうえで、法人化に踏み切りました。
開業以来増収増益を続けていますが、目先の利益ではなく、支えてくださるお客様を一番大切に経営を続けています。「多店舗展開をしては?」「カフェもオープンしては?」など、助言してくれる方々もいますが、クオリティを犠牲にしたくはありません。今の規模だからこそ高いクオリティを保てるのです。
アーティストとのコラボレーションにより、新たな可能性を探りたい
中学生のときから、世界的に有名なアーディスト、村上隆さんとコラボレーションをしたいと憧れていました。自分が有名になれば必ず会えると思い続けていたのですが、様々なご縁から念願が叶って、本当にお店に来てくださり、コラボレーションも実現しました。
今、若い人に絶大な人気のファッションブランドとのコラボも進んでいます。
エテのブランドを、料理以外のジャンルのアーティストとのコラボレーションによって広げていければ面白いなと思っています。
料理は、最高の素材を集め、丹精込めて仕込みをし、完璧な作品をお客様に提供するという意味ではアート作品と同じだと思っています。しかし、アート作品には億単位の値段が付くけれど、料理は一皿数千円の世界。しかも、仕事は早朝から夜中まで休む暇もないほど忙しい。そのため料理人を目指す人も減っているようで、せっかくの日本の文化が消えてしまうという危機感があります。
料理の文化を守り、料理の道を目指す人を増やすためにも、エテのブランディングを成功させて料理の価値を高めたい。そんなに辛い思いをしなくても利益が出せるビジネスモデルをつくりたいと思っています。
成功の秘訣は、まだ誰も見たことがないオリジナルな価値を創り出すこと
レストランで修業していた頃は、早朝から夜中まで働き、帰宅してからも料理の勉強をし、料理以外のことを考える暇のない毎日でした。1000万円もの借金をして起業したときは、もし私が死んでも借金が払えるよう生命保険に入りました。まさに生きるか死ぬかの覚悟で起業したのです。
事業を成功させるためには、並外れた努力をするのは当たり前で、それプラス、誰も見たことがないオリジナルな作品を創り出すこと、人々が体感したことのない価値を創り出すこと。それさえできれば、料理以外の業界でもきっとうまくいきます。
起業するのは勇気がいることです。しかし、規模は小さくても、人々の心に響くマスターピースを生み出し、自分のクリエイションを支えてくれる人を大切にすれば、成功する可能性は無限に広がっていくと思います。