1. 株式会社スタディカルテ 代表 樋口 雅範 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社スタディカルテ 代表 樋口 雅範 氏インタビュー

株式会社スタディカルテ 代表
樋口 雅範 氏
父親が病気のため生活が苦しく、アルバイトをしながら高校に通っていたという樋口雅範さん。多くの生徒に慕われていた部活の顧問の先生の死をきっかけに、教師を目指すようになる。経済的な事情により自宅から通える国立大学一択で受験勉強をしたが、予備校に通わず独学で勉強する大変さを実感。その頃から「教育格差をなくす」ための新しい教育の在り方を模索するように。2019年に株式会社スタディカルテを設立し、テクノロジーを使って生徒1人ひとりに最適な学習環境を低価格で提供するビジネスを展開している。
株式会社スタディカルテ Webサイト

新しい教育システムを世の中に提供し、教育格差をなくしたい

株式会社スタディカルテは「だれもが自分の夢を信じられる社会へ」というビジョンのもと、良質な教育の提供を行うことを目的として2019年9月に設立された。医学部や難関大学受験に高い合格実績を持つオンライン個別指導塾「スタディカルテLab」を運営している。2020年9月に「Study Karte」というWebアプリを独自に開発。これは、生徒の学習情報を一元管理し、生徒1人ひとりに合った効率的な学習法をナビゲートするツールだ。これによって、受験生の学習時間の大半を占める自学自習の効率を飛躍的に向上することが可能となる。

自ら教育格差を実感したことから、起業によって教育格差をなくすと決意

経済格差と学力格差はリンクするとはよく言われますが、まさに私が当事者でした。生活保護家庭に育ち、大学進学に苦労したことから、将来は教育の道に進み、教育格差をなくしたいと早くから思っていました。

特に教育格差を実感したのは、塾や予備校に通わずに大学受験を経験したことです。しかし、幸運にも私には全国模試で成績トップの友人がいました。彼の勉強法を見ていると、決して彼に宇宙人的な特異な才能があるわけではなく「正しく理解し、正しく反復すれば学力は上がる」ということを確信しました。しかし、そのような正しい学習法を知っている生徒はごくわずかです。

難関大の受験生の勉強時間は、60~70%を自学自習が占めていると言われています。その時間を、間違った学習法で過ごすのは時間の損失です。塾や予備校に行けば正しい勉強法を学ぶことはできますが、経済的にそれが難しい人も多い。その状況を変えることはできないか、と考えていました。

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賛同してくれる仲間や投資家らの支援により起業の夢が実現

大学に進学してからも「教育を変えたい」という気持ちを持ち続けていましたが、一斉授業による集団指導が前提の公教育から変えていくのは難しいと実感しました。そこで大学卒業後は、学校教師ではなく個人塾を始める道を選びました。数学講師として生徒たちを指導する傍ら、動画教材を作ったり学習アプリを開発したりと、新しい教育の仕組みづくりを研究していました。私の思いに賛同し応援してくれるエンジニアやWEBディレクター、デザイナー、マーケッターなどと協働し、システム開発を進めていました。

新しい仕組みが形になりかけた3年前、活動拠点を大阪から東京に移転しました。協働していた仲間の大半が東京の人でしたし、ビジネスの環境としては、やはり東京のほうが有利と考えたからです。

この頃には一個人の塾ではなく、起業して、会社として「教育を変える」という大事業に取り組みたいと思うようになっていました。その方が目の前の数十人の生徒だけでなく、多くの生徒たちによりよい教育を与えることができると思ったのです。

転機となったのは、2018年のTOKYO STARTUP GATEWAY(TSG)でファイナリストに選ばれたことです。このときに知り合った同期の仲間や投資家の方々に助言をいただいたり、人を紹介していただいたりする中で、急速に起業の夢が形になっていきました。

個人事業主のときとは異なる苦労の数々を乗り越え成長できた

システム開発は難航し、必要な開発費はかかるばかりで、複数の仕事を掛け持ちしてなんとか会社を運営していました。その後、投資家による出資を得て、今後の事業の柱となる「Study Karte」の開発に着手でき、今、開発がひと段落したところです。

お金の苦労もありましたが、それ以上に精神的に辛かったのは、創業メンバーたちと意見が分かれて何人かのメンバーが去っていったことです。辛い経験でしたが、個人事業主として1人で自由にやっていたときにはなかった経験であり、自分の成長のためには必要な経験だったと思っています。

また、僕がプレイヤーになると個人事業主のときと変わらないので、マネジメントに徹して、いかに組織として仕事を回していくかを考えるようになったことも、自分ながら成長したと思います。

創業当初は朝から晩まで仕事のことしか考えられなくなり、プライベートが全くない状態でした。ワークとライフのメリハリをつけるのは意外に難しいと実感しました。そのままでは精神的によくないと思い、最近では切り替えられるようになったと思います。

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スタディカルテが目指すこと

昨年(2020年)9月に「Study Karte」ができたことで、少しずつ、多くの人たちに優れた学習環境を安価に提供するための基盤が出来つつあります。
「Study Karte」の最大の強みは、生徒1人ひとりの学習進度に合った教材やカリキュラムを提供するだけでなく、その生徒のキャラクターに合った学習計画、進捗管理、勉強法のアドバイスを行うこと。それだけなら従来の個別指導塾にもあるサービスですが、「Study Karte」の特徴は、それらをITテクノロジーによって自動化していることです。テクノロジーではできないところだけは、プロの講師がオンラインで指導します。

従来は優れたカリスマ講師に出会うことでしか得られなかった質の高い個別最適の学習を、テクノロジーによって自動化することで、誰でも安価に享受できるようになりますし、講師の負担軽減にもつながります。

1カ月後の定期テストで20点上げることは、実はそれほど難しいことではありません。しかし、無理に詰め込み学習をして覚えてもすぐに忘れますし、いずれは伸び悩みます。怖いのはそういった間違ったやり方が身についてしまうことです。正しい勉強法を身につけることで、自立的に意欲をもって勉強に取り組める生徒を育てることが「Study Karte」の理想です。

もともと成績のよい子は、自然と正しい勉強法が身についています。そのスキルを誰でもが使えるスキルとして一般化することはとても難しいですが、それだけにやりがいがあります。

「Study Karte」は、生徒数が増えデータが集まれば集まるほど精度が高まります。多くのデータを蓄積して、生徒個人だけでなく、大手塾などにもwebプラットフォームとして提供し、より多くの生徒に使ってもらいたい。将来は、「昔、教育格差なんて言葉があったよね」と言われる世の中になることが夢ですね。

起業を目指す人に向けて

私は頭でっかちのところがあり、ぎりぎりまで考えて、できそうだと思ってからようやく起業に踏み切りました。しかし、状況は日々刻々と変わっていきます。ある日突然チャンスが訪れるかもしれないし、その逆もある。考えているだけでなく、行動することが大切と思います。

一方で、考えなしに行動すると遠回りになるという側面もあります。起業を目指すなら、1人で考える時間も大事ですが、メンターなどの協力も得ながら行動していく。思考と行動のバランスが大事だと思います。

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