- トップページ
- 東京都創業NETインタビュー
- 株式会社アクティベートラボ 代表取締役 増本裕司氏
東京都創業NETインタビュー
株式会社アクティベートラボ 代表取締役
増本 裕司氏
マンションディベロッパー、大手広告代理店、ITベンチャーなどを経て、日本最大のシェアを誇る音楽配信・インターネット回線提供会社の経営企画職に。そこで36歳のときに脳出血で倒れ、障害者となる。再就職を試みるが、面接では障害のみにフォーカスされ、過去の実績や能力、人となりは一切見られることなく不採用が続く。ようやく就職できた会社でも戦力として期待されなかった。この経験から、障害者の立場に立った、障害者に必要なサービスを創出するべく起業を思い立つ。
株式会社アクティベートラボ Webサイト
障害を持つことになって見えてきた、
多様化社会に向け本当に必要なこと
株式会社アクティベートラボは、障害の有無に関わらず活き活きと働ける社会の実現を目指し2015年7月21日に創業。一言で障害者と言っても、障害の原因や部位によって必要な情報やサポートは異なることに着目し、不自由な部位ごとに適切なマッチングを行うマッチングエンジン「ブイくん」を開発。「ブイくん(※1)」を活用した、身体障害者・介助者/介護者・医療従事者向けポータルサービス“OpenGate”の開発・運営を主な事業とするほか、障害者向けライフサポートサービス、障害者雇用支援サービス、広告サービス、マーケティングサービス、障害者関連コンサルティングを行っている。
ある日突然障害者に。人生は終わったと思った
健康そのものの働き盛り、36歳のときに、脳出血で突然倒れ2週間昏睡状態に。目が覚めたら身体障害者になっていました。右半身麻痺、言葉は話せない。ベッドから起き上がれない。医者からは「人生をあきらめてくれ」と言われました。
4年間リハビリをしてなんとか自力で歩けるようになり、多少不自由はありますが、ほぼ普通に話せるまで回復しました。車も運転できるようになりました。
そこで、もう一度働こうと就職活動を始めました。しかし、60社にエントリーしても返事が来たのは30社だけ。その30社も、面接では「通えますか?」ということしか聞かれない。「満員電車に乗るのは無理です」と言うと、これまでの経験も実績もスキルも聞かれることなくそこで話は終わりでした。
ようやくアルバイトで採用された会社では、仕事を与えられませんでした。何をしたらいいのかと聞くと「ただ座っていればいい」と言われました。障害者の法定雇用率をクリアするためだけに雇われたのです。
これまでバリバリ働いてキャリアを築いてきまたから、何もしないのは堪えられない。そこで、勝手に営業活動を始めました。すると健常者の営業をはるかに上回る4200万円の売上を立てることができました。周囲はとても驚いていましたね。
障害者目線で障害者の役に立つサービスを作りたい
4年間のリハビリ期間やその後の再就職で、障害を持っている人の生活がいかに不便で、また、いかに情報からとり残されているかに気づきました
障害者を対象にする業界は、国の助成金や補助金目当てで、障害者のことを本当に考えている企業はごくわずかです。
障害者目線で考えると、本当に必要な情報やサービスにアクセスできていない。たとえば、目の不自由な人にWebサイトで情報を提供しても見ることができません。障害のためにデジタルデバイド(情報格差)が起こっているんです。
障害者を取りまく環境には、まだまだ足りないものが多すぎる。いったい何が足りないのか、どうすれば障害者が暮らしやすくなるのか。
身体障害者は、障害の重さによって1級から3級まで等級分けされます。私は2級ですが、車も運転できますし、人並み以上の営業もできますが、それでも「障害者」とひとくくりにされてしまいます。
身体障害者は全国に550万人いますが、それぞれ障害のある部位が異なり、必要なサポーとも情報も異なります。自分の障害の部位ごとに情報が検索できれば、同じ障害を持つ者同士で情報交換をしたり、必要なサービスやコミュニティが見つけやすいのではないか。そういうサービスが作れないかと考え、2015年に自己資金と日本政策金融公庫からの融資をもとに起業しました。
障害の部位ごとに、必要な情報とマッチングできる新サービスの誕生
障害の部位ごとに自分の情報を登録できる「ブイくん」というマッチングエンジンを開発し、ブイくんを利用して、同じ障害を持つ人とつながれるOpenGateというポータルサイトを開設しました。OpenGateは、働きたい障害者と、障害者を雇いたいという企業のマッチングサイトとしての役割をはじめ、障害に応じた製品、住まい、イベント情報など、さまざまなサービスを提供していきます。
この事業は、「ビジコンなかの」最優秀賞受賞、「かわさき起業家オーディション」優秀賞、「アントレプレナー大賞」ソーシャルビジネス部門賞受賞、三菱総合研究所主催「INCF ビジネス・アクセラレーション・プログラム 2019」で最優秀賞受賞など、いくつかの賞をいただき、それをきっかけにネットワークが広がりました。
共感してくれる仲間がいたからここまで来られた
障害者にとって人や情報との出会いは想像を超えるほど難しいということを、自分が障害を持ってはじめて理解しました。しかし、私を助け、希望へと導いてくれたのもまた人や情報との出会いでした。
「ブイくん」のアイディアは、最初はほんの思いつきでしたが、それを聞き、賛同し、応援してくれる人たちがいたから、ポータルサイトもでき、ビジネスとして形にすることができました。「これさえあれば世の中はいい方向に変わる」という強い信念を持ち、それを人に言い続けることが大事だと思います。
そ全国の障害を持った人たちが、僕たちの作るサービスで「ああ、いいかも」と思ってくれたら嬉しい。そういう世界を創ることが起業の魅力であり目的ですね。
今後も、障害者視点で障害者が活躍できるマーケットを創出したい。そして、ITやAIを駆使して障害者のデジタルデバイドを解消し、特に「働くこと」で社会参画する障害者を増やすことにチャレンジし続けたいと考えています。
さらには、ブイくんを通じて、世界中の身体が不自由な人をつなぎ、それぞれにとって便利なモノ、コト、文化を共有できたらいいなと思っています。
※1 ブイくん=株式会社アクティベートラボが取得した身体障害者に特化した属性情報(呼称:ブイくん)(特許第6202136号)