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東京都創業NETインタビュー
株式会社ハッシン会議 井上 千絵 氏
名古屋テレビ放送株式会社で報道記者として勤務したのち、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に進学。修了後は、株式会社ベンチャー広報に転職する。2018年には「PRコミュニティ」の前身となるサービスを立ち上げ、2020年に株式会社ハッシン会議を設立。これまでに約100社に対し、広報・PR戦略の伴走支援を行っている。2022年にはAPT Womenに参加し、その後、伴走型支援サービス「最強広報の組織づくり」を開始。
株式会社ハッシン会議 コーポレートサイト
非PR会社だから実現する伴走型支援による広報人材の育成
広報・PR人材は外注する時代から育てる時代へ
PR会社ではありません── 自己紹介の際には、必ずそうお伝えしています。私たちが取り組んでいるのは、広報人材の育成です。自走できる広報担当者を増やすこと。それが目指す姿です。
広報・PR活動で最も重要なのは、「継続すること」だと考えています。しかし、PR会社に外注すると一定の金額がかかるため、費用面から断念する企業も少なからず存在するのが現状です。またPR会社に依頼したとしても、契約が切れてしまえば広報活動自体がストップします。そうした企業に対して、何かできることはないか。その問いに向き合うなかで生まれたのが「PRコミュニティ」です。ここには会員同士が自然に学び合える環境が整っており、無理のない価格設定で個人事業主や一人会社にも門戸を開いています。このように、より多くの企業が広報・PR活動を継続できるよう、さまざまなサービスの展開に取り組んでいるところです。
当事者意識から生まれたハッシン会議
実は起業という選択肢が最初からあったわけではありません。結婚、妊娠、出産とライフステージが変わるなかで、それまでのようにテレビ局の最前線で働き続けるのは現実的に難しくなり、まずは転職を考えました。とはいえ、培ったスキルを他業種にそのまま生かすのは容易ではなく、自分のキャリアを見つめ直す必要性を感じたのです。そこで、娘が0歳のときに大学院へ進学。専攻したメディアデザイン研究科には学生起業家が多く、彼ら・彼女らとの交流を通じて、前職の経験が情報発信の分野で生きることに気づきました。
これが転機となり、修了後はPR会社へ転職。多様な企業の広報活動に携わるなかでやりがいを感じる一方、限界も見えてきました。たとえば、当事者の熱量をそのまま伝えきれなかったり、クライアントの資金繰りや方針転換で広報活動が中断したりと、外注という立場では思うように貢献できない現実に直面したのです。そうした歯がゆさから企業内に広報・PR人材を育てることの必要性を感じ、2020年にハッシン会議を設立しました。
APT Women参加で見えた、次の一手と事業の可能性
3期目を迎え、事業として少しずつ形になってきた実感はありました。一方で、「今のやり方では限界がくるかもしれない」と感じていたのも事実です。さらに、コミュニティを軸とした事業を進化させたいという思いもあり、あらためて学び直すべくAPT Womenへの参加を決めました。
参加して特に良かったのは、視野が格段に広がったことです。以前の私は目の前の世界にしか意識が向いておらず、新しいことを始めたいと思っても、「どんな形にして、どう広めるか」ばかりにとらわれていました。そんなとき、メンターから「ハッシン会議はとても良い事業」と評価され、「既存のサービスをさらに広げていくべき」といった具体的なアドバイスをいただいたことで、新たな可能性に気づけたのです。そこから、「最強広報の組織づくり」という新しいサービスの立ち上げへと発展していきました。また、同じフェーズにいる女性起業家の方々と補助金や社員の雇用といった実践的な情報を共有できる環境があったのも大きかったです。
APT Womenへの参加を通じて、「こうして進めていきたい」という道筋がより明確になり、自信を持って進めるようになったと感じています。
自走できる広報組織が目指すべき未来
伴走型支援サービス「最強広報の組織づくり」では、組織体制の構築や人材育成の方針などについて、壁打ちしながらお客様と一緒に考えていきます。ゴールは、外部に依存しすぎず、社内で広報・PR活動を自走できる体制の構築です。
もちろん、そこには難しさや葛藤も伴います。しかし、経営層が本気で広報・PRにコミットしなければ、体制は変わりません。「ハッシン会議がいるから今のままでいい」となれば、それは本末転倒です。だからこそ、自走できるようになった企業には卒業を促し、支援を必要とする企業にリソースを集中する。それが、私たちのスタンスです。
これからは、顧客支援を優先していたため後回しになっていた自社の広報活動に本腰を入れ、自治体やメディア、同じ業界の方々と連携しながら、より多くの人にサービスを届けていきたいと考えています。開かれた形での活動を、さらに広げていくつもりです。
起業を目指す方へのメッセージ
テレビ局を退職する際、「なんで辞めちゃうの?」「すごい勇気だね」といった言葉をかけられ、どこかモヤモヤした気持ちになりました。もしかすると、失敗が怖くて挑戦できないという思いが、相手にも私自身にもあったのかもしれません。もちろん今でも失敗は怖いです。でもそれ以上に、事業を通して社会を変えたいという強い思いがあるからこそ、ハッシン会議を続けています。
その思いを支えてくれる仲間の存在は、とても心強いです。最初は一人で始めた活動でしたが、少しずつ応援してくれる人が現れ、今では仲間とともに事業を進めています。これは会社員時代には得られなかった感覚で、言葉にできないほどエキサイティングな経験です。
人生100年時代とはいえ、健康に働ける時間には限りがあります。その限られた時間で悩み続けるのは、もったいないです。だからまずは、「こういうことをやりたいんだよね」と、身近な誰かに話してみてください。そして、仲間とともに一歩を踏み出してほしい。私は、そんな皆さんを心から応援しています。
記事内の創業・成長支援プログラム
Acceleration Program in Tokyo for Women「APT Women」
APT Womenは、スケールアップを目指す女性ベンチャーに対し短期集中型育成プログラムを提供することで、スケールアップに必要な経営知識やスキル、それらを共有するベンチャー企業同士の繋がり、更に事業展開に欠かせない協力者・支援者(ベンチャーキャピタル、メディア、大企業等)とのネットワークの獲得を支援します。