1. 株式会社 Clarity 代表取締役CEO 古谷 聡美 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社 Clarity代表取締役CEO 古谷聡美氏

株式会社 Clarity 代表取締役CEO
古谷 聡美
2010年成城大学社会イノベーション学部卒。在学中に、交換留学生として米・サンディエゴ州立大学で約1年間を過ごす。卒業後は、外資系BPOコンサルティング会社で社長秘書兼アシスタントコンサルタントとして海外企業の日本参入支援などを行う。その後、外資系広告代理店に転職し、アカウントエグゼクティブとしてP&Gやフィリップモリスなどのブランドキャンペーン、新商品ローンチを担当。28歳で独立し、フリーランスでベンチャー企業のスタートアップなどに参画した後、2018年1月に株式会社Clarityを設立。働く女性のための企業の働き方データベース「Clarity」 を開発し約2万社の企業データを独自に収集・公開。2019年8月には付帯サービスであるロールモデルSNSのβ版をリリースした。
株式会社 Clarity Webサイト

どんなライフステージの女性も希望の働き方ができる場づくりを

女性は出産・育児によりライフスタイルが変化しやすく、子どもの成長に伴い働き方が変わる人が多い。今や国を挙げて働き方改革、女性の積極活用を推進している時代だが、実際にどの企業にどんな制度があり、どの程度女性が活躍できているか、外からはよく見えないのが現実だ。そんな中、株式会社Clarityは企業での女性の働き方にスポットをあて、上場企業など 約2万社の福利厚生、人事制度のデータベースと企業レビューを比較できるプラットフォームを開発。そのアイデアは高く評価され、19年2月に都内で開かれた世界最大級のスタートアップとテクノロジーの祭典「Slush Tokyo」ピッチコンテストで、日本人初の優勝を果たした。代表取締役CEOの古谷聡美氏に、起業までの道のりや女性活躍への想いを聞いた。

女性が働かないことは「リスク」でしかない

女性活躍推進が社会的に広がっていますが、現実にはまだ仕事と子育ては両立しにくく、長時間労働などの働き方の課題や、女性だからといったバイアスが理由で働き続けることやキャリアアップが難しいといった課題があります。企業で働く女性の9割が「働き続けたい」と望む一方で、6割の女性が第一子出産を機に退職をするというデータもあります。女性が妊娠、出産などを理由に中途で退職してしまうのは、女性、企業の両方にとってもったいないことです。そこでClarityでは、育児時短はいつまでを対象としているかなど、企業の外からは見えにくい福利厚生、人事制度を比較できるプラットフォームを作りました。どんなライフステージを迎えた女性でも、希望の働き方を選べるようにするのが目標です。 2019年8月には、働く女性のロールモデルから仕事と子育ての両立方法を参考にできるロールモデルSNSのβ版をリリースし、様々な確度から今・未来のワーママさんにキャリアと人生の選択肢を提供できるサービスを目指しています。

私の事業のテーマは「女性のエンパワーメント」ですが、実は昔からそうだったわけではありません。幼稚園から高校まで女子校に通い、小さいころは「女の子だから勉強するより教養を身につけなさい」と言われて育ちました。父は印刷会社を経営し、母は専業主婦。女性の幸せは、高収入の夫をみつけていい暮らしをさせてもらうことだと信じ、結婚をゴールとした昔ながらの価値観を受け入れていました。そんな考え方が一変したのは、私が中学生のとき、父が経営していた会社が経営難に陥ったことがきっかけです。

生活は激変しました。自宅兼オフィスビルは売りに出され、車やブランド品は売却を余儀なくされました。そして、専業主婦だった私の母は、「これからは紙ではなくWebの時代になる」と、自分でWeb制作会社を立ち上げたのです。そのとき、経済的なことを男性のみに頼り、女性だからといって働かないでいることは、リスクでしかないと感じました。

古谷聡美氏インタビュー

20代は下積み、外資系企業でグローバルな視点を学ぶ

もう一つ目標としていたのは、国内だけでなく海外でも活躍できる人になることです。そのためにはまずは英語を身につけなければなりません。でも当時父の会社は再建中で海外の4年制大学への進学は経済的に難しかったため、せめて1年間は海外の大学で学びたいと長期の交換留学制度のある成城大学に進学し、TOEFLの猛勉強をして、成城大学から一人目の交換留学生としてサンディエゴ州立大学に留学しました。卒業後はビジネス英語だけでなく、グローバルなビジネススキルを身につけるため外資系企業に就職しました。最初に入社したBPOコンサルティング会社では、アシスタントコンサルタントとして、海外企業の日本参入の支援、既に日本に支社がある外資系企業のバックオフィスのアウトソーシングやコンサルティング支援のアシスタント業務をバイリンガルで行っていました。アメリカ人社長の秘書も兼ねていたため社長とともに経営の現場に立ち会うことが多く、短期間で多岐に渡る課題解決を行い、成長することができました。しかし、バックオフィスのアウトソーシングは、人員削減などコストカットが目的の場合が多く、マイナスをゼロに近づける仕事です。それよりもゼロから何かを生み出す仕事がしたいと思うようになり、外資系広告代理店に転職しました。そこでは、アカウントエグゼクティブとしてP&GやPhillip Morrisといったグローバル企業の有名ブランドを担当しました。

二十代は下積みだと覚悟し、昼夜関係なくよく働きました。過労だとは思いつつもがむしゃらに働き、それなりのお給料もいただいて人間関係もできあがってくる。社内外から認められ、頼られるようになると、社内での居心地もよくなってきます。 しかし起業したいという思いは捨てきれず、会社の休暇を利用して、アメリカのシリコンバレーに一人で視察に行きました。友人を頼りにFacebookやGoogleといった有名会社からスタートアップまで、さまざまな企業を訪ねたのです。そこで起業家たちがエネルギッシュに働く姿に刺激を受け、起業のため会社を辞めることを決意しました。

自分の人生をかけてこそ、人はついてきてくれる

2年間フリーランスとして起業のための準備を行い、2018年1月に自分の会社を設立しました。ただ、最初からうまくいったわけではありません。プロダクト開発だけでなく、資金調達や会社運営などわからないことだらけでした。幸いエンジェル投資家から投資を受けることができましたが、何も形にならないまま資金はあっという間に底をつきました。テクノロジーを利用したプラットフォーム開発をするためにはエンジニアが必要なのですが、採用にはとても苦労しました。あらゆる媒体を利用して求人をしてもスタートアップの初期フェーズに合うエンジニアとなかなか出会うことができません。リクルートのためエンジニアが集まるイベントに参加し、専門用語だらけで会話の内容もつかめないまま最後に名刺交換だけして帰るということもありました。

いわゆるスモールビジネスとスタートアップの起業のしかたは違いますよね。スタートアップの起業は、投資を受けたりして、一時的にある程度のリスクを取らなければなりません。ここで諦めて、辞めるわけにはいきません。「自分が人生をかけてやってこそ、人はついてきてくれるのだ」と覚悟を決め、日本政策金融公庫から創業融資を受けました。父の事業の失敗を見ていたので、銀行からお金を借りることにはとても抵抗がありました。でも日本政策金融公庫の創業融資は条件が合えば無担保無保証で借りることができるので、とても助かりました。

転機になったのは昨夏、アメリカのシード投資ファンド「500Startups」と神戸市が主催 する起業家育成プログラム「500KOBE」に採択されたことです。そこでシリコンバレーから毎週訪れるメンターから、資金調達やグロースハッキングの手法、効果的なピッチのテクニックなどを教えてもらいました。それが今年の「Slush Tokyo」ピッチコンテストの優勝につながったのだと思います。憧れだったSlushでピッチできるだけで光栄だったので、優勝したのは自分でも驚きでした。

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働き方と人生の選択肢を増やしたい

これから起業する人には、あまり考えすぎずとにかくチャレンジしてほしいと思います。そしてやるなら本気で取り組むことです。起業が成功するかどうかは、結局人と人とのつながりによるところが大きいと思いますが、本気で取り組んでいれば、必ず誰かが手を差し延べてくれます。もし仮に失敗してしまったとしても、本気で取り組んでいれば、その経験がその人の人材価値を上げ、また次のチャンスにつながるのではないでしょうか。

Clarityは現在6人体制になりました。Clarityの理念に共感し、ベトナム人エンジニアや、優秀なマーケターなど、素晴らしい人材が集まってくれました。私たちに共通する思いは、働き方と人生の選択肢を増やしたいということ。今後は女性だけでなく、企業に雇用されて働いている全ての人にとって役に立つプラットフォームへと発展させたいと考えています。

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