1. 株式会社ケアウィル 代表 笈沼 清紀 氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社ケアウィル 代表 笈沼 清紀氏インタビュー

株式会社ケアウィル 代表
笈沼 清紀 氏
ITコンサルティング、M&Aアドバイザリー、経営企画、執行役員など様々な職種、役職を経て、2019年「ケアウィル」を創業。認知症の父親の看病と介護の経験から父親の死後にデザインと機能を兼ね備えたケア衣料(着やすく、着せやすい服)の開発をスタート。現在はオーダーメイドに加え、定番プロダクト2型を展開。このうちアームスリングケープは2021年度グッドデザイン賞を受賞。
株式会社ケアウィル Webサイト

「服の不自由を解消する」製品とサービスを創造し、誰もがボーダレスに過ごせる社会環境を実現する

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父親の闘病生活を支える中で覚えた病衣に対する違和感

大学卒業後、日本総合研究所にてITコンサルティング、SMBC日興証券にてM&Aアドバイザリー、楽天、ケンコーコム(楽天より出向)およびJINSにて執行役員、KDDIにて革新担当部長など、数々の企業でマネジメントと事業開発に従事。キャリアを積む一方で、精神障害で21年間闘病生活を送り、その後認知症を発症した父親を介護するなか無個性である病院着に違和感を抱く日々。特に、認知症で要介護4となり本人が更衣ができなくなった際の病院着は、首もとのファスナーに鍵が付いたつなぎ服で、色も薄い水色。後ろ姿では誰が父親か分からない程。いつか快方に向かうという本人と家族の希望を病院着が全て書き消してしまっている。衣服は本来、着用者本人がアイデンティティを感じ、表現するものであるはずが、病院では本人にも家族にもネガティブな影響を与えていることに対しさらに違和感は募りました。

実体験で感じた後悔の念が起業を後押しするきっかけに

父が病に伏せても「安全に」過ごせるように施設入居費や入院費等を支払うため高い給与が得られるキャリアを全力で駆け抜けました。しかし、父が亡くなったあと、心にぽっかりと穴が空いた状態に。同時にもし、死を迎える前の入院中に父親が着たい服を着せてあげることができていたとしたらたとえ認知症であっても父親の意思を尊重できたのではないか。薄く冷たい病院着のまま無機質な部屋で最期を迎えさせてしまったことに対し後悔の念が強く残り、「他の人が自分と同じような後悔をしないよう病院着の現状を変えていきたい」と強く思うようになりました。時間があれば事業アイデアをノートに書き留める日々を過ごす中で、TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)の電車広告がふと目に止まり応募を決意。服飾講師である母親に応募を打ち明けると僕の思いとアイデアに賛同してくれ、TSGに参加しながらデザインと機能を兼ね備えたケア衣料の開発、オーダーメイド製作を行う「株式会社ケアウィル」を設立しました。

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社会情勢に合わせ事業戦略をシフトチェンジ

TSGではファイナリストに選ばれ、(1,800名以上の応募者から10名が選出)、さらに決勝大会では来場した観客がもっとも評価をしたオーディエンス賞を受賞。更に受賞をきっかけに出演したテレビ番組での反響が大きく、国内のみならずシンガポール、10代~50代の幅広い年齢層、急性期から生活期まで幅広いステージの傷病を患う方々からオーダーが入り始めた頃、コロナ禍により社会情勢が一変。お客様と直接お会いしてヒアリングや体の採寸を行うことが難しくなり、オーダーメイドでの衣服の製作が途端にストップ。ケアウィルの衣服を待ってくださっている方がいるのに届けることのできないもどかしさが募り、環境の変化に合わせ事業戦略を変えようと会社員時代に培った知識を活かし、事業のデジタル化に振り切ることにしました。幸い、オーダーいただいた方にヒアリングする機会に恵まれ話を聞く中で、傷病も年齢も住んでいる場所も違うけれど抱えている衣服に対する悩みは共通していることに気づき、服の不自由を特定し、それをピンポイントに解消する「最大公約的」機能を備えたケア衣料を開発しようと奔走する日々が始まりました。

行政や仲間の知恵と力を借り誕生した新製品

製品開発に向け、東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」のアドバイザーの方にアドバイスを受けながら事業計画を立て信金から創業資金を調達。また、TSGのファイナリスト受賞の特典である法人設立の助成金や中小企業庁の補助金も活用しました。創業2期目には東京都中小企業振興公社の「事業可能性評価事業」にも採択され、公社のアドバイザリーに縫製工場を紹介いただき、10社以上の工場と直接やりとりしながら現場で衣服製作に必要な知識を増やしていきました。さらに、WEBサイトやクラウドファウンディングの立ち上げ、介護・リハビリ事業を行う法人とのパートナーリングにより事業基盤を整えていきました。その際には、TSGに参加していた同期でマーケティングやECに強い仲間が力を貸してくれ、オンライン販売の準備を進めることができました。TSGの同期はファイナルまでの過程を共に過ごしているので、僕の事業に対する思いや世界観を尊重してくれ、ずっと応援してくれていました。そしていざという時には手を差し伸べてくれる。TSGで互いに切磋琢磨できる仲間に出会えたことが僕の財産になっています。メンターとして紹介頂いたファクトリエの山田代表にもビジネスを成功させるためのアドバイスをいただいたりと、沢山の方の知恵と力を借りケアウィルのWEB(EC)サイトがローンチ。クラウドファウンディングでの支援者の協力もあり、新製品の販売がスタートしました。

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今までにない新しい価値を持つ製品とサービスの創造

今年は、当社の「アームスリングケープ」(上肢に服の不自由がある方が着る三角巾と一体化した上着)が2021年度のグッドデザイン賞を受賞し、ケアウィルの代表的なアイテムが誕生。そして「服の不自由を解決する」というブランドのビジョン、お客様とのタッチポイントであるWEBサイトやリーフレットなど統一されたトーンも出来上がり、「ケアウィルらしさ」が確立されました。今後は、製品とブランドの認知をより多くの方に正確に伝えていくフェーズに入っていきます。そのため、来春にはリハビリ・介護事業所の作業療法士、理学療法士、訪問看護師といった専門従事者の方々とパートナーシップを結び、回復期・生活期の「服の不自由」を抱えた当事者とそのご家族へ、ケアウィルの認知を広めていきたいと考えています。
傷病を患う当事者とご家族、リハビリ・介護の専門従事者、パタンナー、服を製造する工場、縫製者、といったケアウィルに協力してくださっている方が全国にいるということを忘れずに、世の中にあるすべての「服の不自由」を解消するというビジョンに向けて挑戦し続けたいと思っています。

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起業を目指す方へのメッセージ

一点目は、自らの起業のきっかけとなった原体験を深く掘り下げ、それに対し忠実に動いていくべきです。原体験にもとづいた信念がない色々な人からのアドバイスにより事業の軸がぶれてしまうと思うためです。
二点目は、事業が目指すゴールを具体的に、短期・中長期で定めることが大切です。そして、そのゴールを実現するための行動計画を事業計画書に落とし込むことも必要です。組織化した時にメンバーが同じ目標に向かって進むためです。
三点目は、自分に適した方法で資金調達をすることです。資金調達=ベンチャーキャピタルではなく、今は国や都の創業や事業化を支援する制度も手厚いです。日本では創業1年で28%が廃業します。つまり「持続性」が大切です。せっかく良い原体験や事業計画を持っていても途中でバーンアウトしてはもったいない。なるべく負担が大きくならないよう、様々な制度を知り、活用していくべきだと思っています。

記事内の創業・成長支援プログラム

TOKYO STARTUP GATEWAY

TOKYO STARTUP GATEWAYは、テクノロジーから、モノづくり、ソーシャルイノベーション、リアルビジネス、グローバルを見据えた起業など、分野を越えて、「東京」から世界を変える若き起業家を輩出するスタートアップコンテストです。
優秀なビジネスプランなど、初めは必要ありません。「こんな世界や世の中をつくりたい、みてみたい。」その、あなたに秘めた夢・情熱こそが全てのはじまりです。この場に集まる仲間や応援団と共に、真に世界を変えていける力を、思い切り磨いていってください。

女性・若者・シニア創業サポート事業

都内での女性・若者・シニアによる地域に根ざした創業を支援するため、信用金庫・信用組合を通じた低金利・無担保の融資と地域創業アドバイザーによる経営サポートを組み合わせて提供します。
地域の金融機関や専門家の支援を通じて、女性の豊かな感性、若者の夢とアイデア、シニアの経験など、それぞれの持ち味を活かした、地域に根ざした創業を幅広く支援します。

事業可能性評価事業

各分野の専門家が個人・企業様の新規事業計画を総合的に評価し、事業化に向けて支援する事業です。
お申し込みいただいた新規事業計画は、マネージャーが面談にて詳細を伺いアドバイスします。面談で事業可能性が高いと判断された計画は、評価委員会にはかり、総合的に評価しアドバイスを行います(製品・商品・サービス単体の評価ではありません)。委員会での総合評価が高い事業計画については、計画の実現に向けて経営的側面から、公社が継続的な支援をします。

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