1. 株式会社エスティーム 代表取締役 和田 真由子氏

東京都創業NETインタビュー

株式会社エスティーム 代表取締役 和田 真由子氏

株式会社エスティーム 代表取締役 
和田 真由子氏
1991年生まれ。山形県出身。漠然と政治家を目指し、筑波大学に進学。在学中、政治家よりもダイレクトに人に想いを伝えられる生き方として、起業に関心を持ち始める。その後、出版社に就職し、編集者兼ライターとして働く傍ら、起業セミナーに通い、25歳のときに起業。胸が大きな女性のためのアパレルブランド「overE」をリリース。SNSを中心に一躍脚光を浴びる。東京都主催のビジネスコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY2016」セミファイナリスト。
株式会社エスティーム Webサイト

普通の会社員から一念発起。同じ悩みを持つ女性を輝かせたい

株式会社エスティームは、2016年8月に設立された。おもな事業内容は、婦人服の企画・製造・販売。設立と同時にクラウドファンディングで資金を集め、胸が大きな女性のためのアパレルブランド「overE」をリリース。SNSによるユーザーの口コミから一気に注目を集め、現在は銀座に試着専門サロンを構えている。2018年から、大型商業施設などでポップアップショップを連続開催。遠方からも多くのファンを集めている。

祖父へのあこがれ、挫折、引きこもり

政治家だった祖父が子どもの頃からあこがれで、祖父のように自分も人生を賭けて何かやりたいとずっと思っていました。祖父と同じ政治家という道も漠然と胸に抱えながら大学に進学したのですが、人間関係に悩み引きこもりに。人生初の挫折でした。

これからの自分の人生をどうしていこうかと悩み、たくさん本を読む中で、起業家という生き方に興味を持つようになりました。祖父は、政治によって自分の想いを世の中に伝えてきた。起業家は、生み出したサービスや商品を届けることで自分の想いを伝えることができる。どちらも、人生を賭けるに値する仕事ではないかと思ったんです。

マラソンでの完走が自信となり起業を決意する

大学時代の引きこもり生活を経て、ご縁があったスポーツ雑誌の編集者として出版社に就職。小さな会社で私が一番の若手社員。皆さんにかわいがってもらいながら、いろいろな仕事を経験させていただきました。そこで一時は起業のことを忘れかけていたんです。

ところが偶然、会社の人に誘われて東京マラソンに出場したことで、転機が訪れました。実は、私はマラソンが何よりも苦手。苦しくて何度もあきらめようとしましたが、一歩一歩足を進めるうちに、引きこもりになって以来失っていた自信が、少しずつ戻っていくのを実感したのです。

沿道で見ず知らずの私を応援してくれる人たちにもすごく感動しました。走っている私に声援を送り、お水や食べ物を手渡してくれ、「受け取ってくれてありがとう」とまで言ってくれる。お礼を言うのは私のほうなのに、と涙が止まりませんでした。

走りながら「この感謝の気持ちを表したい、返したい」と強く思いました。そして、努力する姿を見せることで伝わるメッセージがあるのだということにも気が付きました。そのときふと、一度はあきらめていた起業という言葉がふっと湧いてきたのです。マラソンのように、人生も挑戦したい。自信はないし、きっと起業をすれば苦しいこともあるけれど、その中で達成感と感謝を感じていきたい、と。

起業セミナーに通い、overEのアイデアの原型ができる

起業をしようと決意したものの、当時の私は“スタートアップ”という言葉も知らないほど無知でした。働きながら、当時住んでいた埼玉県の創業支援センターが開催するセミナーに通って、起業について学ぶことにしました。

事業計画書の書き方、販促の仕方など、基本的なことを学びながら、事業のアイデアを練りました。4案くらい考えた中で、友人たちの意見を聞き、一番共感が多かったのが、胸の大きい人のための洋服でした。

実は、下着メーカーの調査によると日本人女性の4人に1人がEカップ以上。胸を基準に服を選ぶとウエストやヒップが大きすぎたり丈が長すぎたり、そもそも欲しいデザインの服がなかったり。試着室で試着してはみじめな思いをする人が、私を含め意外に多いことがわかってきました。また、胸の厚みでシャツのボタンがはずれ、恥ずかしい思いをすることも。そんな悩みを持つ女性たちのために、「バストが大きな女性が“胸をはって”生きられる服」を提供したいと思いました。

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でも、アイデアができてから起業までは結構時間がかかりました。起業セミナーに通うだけで満足し、実際の行動になかなか移れない自分がいました。働いていればとりあえずお給料をもらえる生活に安住していたのかもしれません。

「このままでは一生起業できない」と思い、起業資金を貯めるために、より給料のいい会社に転職。ところが、適応障害を起こし、1か月足らずで退職。収入が絶たれ、追い込まれました。

この頃、クラウドファンディングも考えていたのですが、似たコンセプトで挑戦しようとしている人がいることがわかり、これはもたもたしていられない!と、そこからエンジンがかかりました。

飛び込みで連絡した工場で、試作品第1号を制作

最初は自分で作るつもりはなくて、国内外にこれだけアパレルメーカーがあるのだから、セレクトショップを作ろうと思い、サンプルを取り寄せたりもしたのですが、意外にピンとくるものがない。海外から取り寄せて試着して発注というプロセスを踏んでいるうちに、売り時を逃してしまうというリスクを考えた結果、「自分で作るしかない」という結論に達しました。

まずは、私自身も人前で胸元のボタンが外れて困ったことがあったシャツを作ることに。とはいえ、私はアパレルの知識がない全くの素人だったので「シャツ」「工場」でネット検索することから始まりました。新潟の工場を見つけ、1週間迷った末、勇気を出して電話をしました。

いきなり電話をしても門前払いかと思ったら、「仕様書を送って」と電話の声。その有難い申し出に「仕様書の書き方がわからないので、直接伺ってもいいですか」と返事をしました。それくらい、私は素人だったんです。

新潟にある工場を訪ね、企画書と簡単なアイデアスケッチを見せると、工場長さんが女性のパタンナーさん2人と引き合わせてくれました。すると、「こういうのが欲しかった」「私も作りたかったんですよ!」と意気投合。大急ぎでサンプルを作り、クラウドファンディングサイトにリリースすることができました。

資金繰りが常に悩みのタネ。お客様の応援が支え

実はクラウドファンディングは通常何か月もかけて準備するものなのに、1週間で撮影からページ作成まで行った見切り発車なプロジェクト。しかし「日本女性の4人に1人はEカップ以上」という切り口で、メディアが取り上げてくださったことでSNSで話題になりました。そこで見知って、最初に商品の先行販売に出資をしてくれたお客様は77名。今でも多くの方がリピーター様として、応援してくれています。

2018年からは東京を中心に、大都市の商業施設で期間限定のポップアップショップを開催していますが、これもお客様が、施設側に熱烈なお願いメールをしてくれたおかげで実現したのです。遠方から新幹線や飛行機で買いに来てくれるお客様もいて、この方々のためにもがんばろう!と元気をもらえますね。

ただブランドのお披露目と同時期に会社も設立していましたが、その資本金は150万。起業準備と、最初の製品の発注でほとんど使いきっていました。
生産には最小ロットというものがあるので、ある程度まとまった注文が必要です。

資金集めにはいつも苦労していますが、お客様の応援があってこそ継続できています。また、東京都の「女性・若者・シニア創業サポート事業」といった制度融資や助成金、東京信用保証協会の創業支援なども活用させていただいています。資金面だけでなく、専門家への相談窓口が設けられたり、国の方針に基づき各自治体で創業の支援をしてくださっているので、すごくありがたいですね。

自分の直感だけ、お客様の声だけで判断しないことがモットー

overEは、当事者ビジネス、つまり、自分の欲しい物を形にしたビジネスです。でも、当事者だからこそ、客観的になることを常に意識しています。なぜなら、「私はこれが欲しい」というものって案外ハズレたりするから。さらにお客様もご自身の悩みを正確に理解していて、言葉にできるわけではありません。ですから、ちょっとした言葉や表情、ふるまいから、「あ、こんなところに不便を感じているんだな」「ここを改善してほしいんだな」と読み取ることを大事にしています。

現在、銀座にあるショップでは新作や定番アイテムを中心に試着ができるようになっていて、お客様が気に入ったものはオンラインショップで購入していただいています。ご予約のサロン形式なため、しっかりとお客様に向き合え、会話の一つひとつがビジネスのヒントになっていますね。お客様が既に気づいていることは、もう世の中にはある。お客様すら気づいていない潜在的なニーズの中に、次のヒットアイテムがあると思っています。

起業を考えているあなたへ。今の自分には無理、と考えないで

私も最初はびっくりするくらい世の中を知らない女の子でした。だけど、これから起業する方にお伝えしたいのは、“その時の自分にできること”を基準に考えなくていいということです。

人は困難に直面すると、乗り越えようとするし、学びもする。その過程で自信が蓄積されていく。その自信がさらに道を開いてくれると思うんです。起業してからの3年半で元引きこもりも、大概のことでは動じないタフな性格になりました(笑)。今、とても達成感や、生きているっていう実感がある。今、私は起業してすごくよかったと思っています。

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